第21話 牙を剥く光合成樹林
B、C班を見送ったA班は早速、邪魔な樹林伐採に着手していく。
「―硬い...」
操縦士の唯が小さく呟く。それに最初に反応したのはA班班長のルイスだった。そんな実動部隊のムードメーカーおじさんの彼は手に持っていた銃を幹に撃ちながら話し出す。
「おいおい...チェーンソーの刃も銃弾も弾かれるってどんだけ硬いんだぁ。こんなもん切断できねぇだろ...それでも、確実にBCを降ろすスペースは確保しないといかんとダメだと...」
腕を組んで何かを考えるルイス。そして、一つの結論を導き出した。
「唯ちゃんよ。タンク・アームズに試作品の電磁波放射弾があったろ?あれを空中で炸裂させてこの辺りの樹の水分を沸騰させて、内部からぶち壊そう。それが一番手っ取り早い。」
「でもあれは危険生物に遭遇した時に、命を守る用なんじゃ...」
「ああ、そうだ。しかし俺たちはまず自分の命よりも任務を達成しなければならねぇ。他の班の皆に迷惑をかける訳にはいかないんだ。その後のことは後で考えるよ。だから、撃ってくれ。」
ヘッドホンから聞こえるルイスの言葉に唯は小さく「わかった」と答える。タンク・アームズに試作品の電磁波放射弾が装填され、樹林の上に撃ち出された。計3発あるうちの1発が発射されたのだ。弾は上空で炸裂し、マイクロウェーブが
「よし、藤堂は大きな破片を除去していっとくれ。残りはまだ残ってる光合成樹の伐採だ。今のでだいぶ表皮が柔らかくなったはずだしな。そんで、タンク・アームズは殺虫グレネードの霧を張り直してくれ。」
確かに、先の爆発により散布していた殺虫剤の煙が吹き飛んでしまっていた。この煙がある限り昆虫を
順調に樹林はなくなり、大きなスペースが出来ていく。これで一応、当初の任務は完遂したことになる。あとは皆がここに帰還するまでここに近づく変異個体を処分するだけ。そして、それも殺虫グレネードの霧が保てる限り問題ない。仮にこの霧の中動ける個体がいたとしても、ここにはタンク・アームズがおり、試作品の電磁波放射弾も2発残っている。誰もが山を越えたと感じた、その時だった。樹林の中からボッボッボッという音が聞こえてくる。
「何ですかね...この音。」
藤堂が樹林の奥へ目をやる。そこから緑色のジェルのような物体がタンク・アームズに飛んでくる。ベチャンッという間抜けな音がし、それは発射砲を塞いでいた。
「こっ、こいつは...?」
困惑した表情を浮かべるルイスなどお構いなしに、その緑色のジェル状の物体はタンク・アームズの関節部分などに次々に飛んでくる。そこにいた全員が飛来物の飛んでくる方へ一斉射撃を試みる。しかし、そのジェルの飛来は止まらない。
「―タンク・アームズの動きが...というか動かない...んですけど。」
唯の声を聞いたルイスは事態の深刻さを認識した。飛来してくる緑色のジェル状の物体は、付着した所でテラテラした光沢となり固まっていた。すなわち、タンク・アームズの砲門や関節部位が動かせなくなったということである。絶対的な力を持っていると思われていたものがこんなにもあっさり攻略されてしまった。
「おいおい、この光沢...樹林についてた奴じゃねぇの??」
「自分もそう思います。これは一体...」
ルイスの問いを肯定しながら、藤堂は
ここで、このパワードスーツについて詳しく説明しよう。肌の露出部位はなく、関節部分も頑丈かつ、伸縮性のある繊維で被われている。こうすることで、変異個体の攻撃からの生存率を跳ね上げる。加えて、スーツの中は適温で非常に過ごしやすい。また、このスーツは非常に動きやすいのも特徴の一つである。これを身に付けるとパワー、スピード共に大きく向上する。他にも、網膜に直接、様々な情報を映し出すなどの機能が備え付けられていた。
そして、このスーツは
先程まで、樹林と馴染むため緑系の色をしていたパワードスーツの色が赤色に変化する。ルイスも藤堂に続き、
「はは、ちょっと正義のヒーローっぽくね?」
流石は実動部隊のムードメーカー。こんな時でも軽口をたたいている。しかし皆、既に樹林の奥から向かって来る巨大な影に視線を集中させていた。ボッボッボッボッという音を鳴らしながらその生物が皆の前に姿を現した。皆、戦慄した。その巨大な姿に...。それでも、ルイスは絞り出すような声で叫んだ。
「戦闘開始だッ!!!」
光合成樹林が生んだ未知なる生物に、彼らは文明の利器を手に立ち向かう。
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