光合成樹林編 第一管理研究所
第15話 施設からの来訪者
...ッセさん、ラッセさん
そう呼ばれて静かに目をあげるラッセ。その額には大粒の汗が光っている。
「アレックスか。もう時間か...」
「おはようございます。ラッセ隊長。時間はまだもう少し残っていますが、とても
「いや、助かる。嫌な夢を見ていたんでな。」
「いつもの...ですか?」
ああ、と頷くラッセを心配そうに見つめるアレックス。どうやら2人は同室らしい。美来の部屋に比べると些か以上に殺風景で必要最低限のものしか置かれていなかった。
「少し早いですけど、朝飯にしましょうか。」
アレックスの提案をラッセは快諾する。光合成樹林第二管理研究所に再び朝がやってきた。未だ状況の不明な第一管理研究所の調査まであと二日と迫っていた。
~~~
2人に初めて会った時以来、美来は皆が訓練に行って暇な時は、唯と麻里先生と共にカウンセリングルームでお茶をすることが日課となっていた。美来がまったく訓練をしなくていいというわけでは無いが、特派や実動部隊とは異なる軽い内容なのだ。この暇つぶしの話を祐介にしたら、殺されるかもしれないので黙っていようと美来は固く誓っていた。
――すまん!親友!!
別に美来もただ遊んでいるわけではないのだ。ここの研究所のチーフである麻里先生と光合成樹林内の遠隔操作ドローンの操縦士である唯と会話を弾ませることで少しでも情報を集めようと努力しているのだ。そうに違いないと自分に言い聞かせる。
「そう...美来くんはご両親がいらっしゃらないのね...その施設の前に捨てられていたあなたを、そのまま育てようとした鏑木さん?には感服ね。」
「はは、感謝してもしきれませんよ。だから、勉強も真面目にして大学の授業料免除にしてもらえるように頑張って、良いところに就職して、金を貯めて、いつか恩返しがしたいんです。」
「うふふ、なら、この仕事は転職かもね。」
「?、どういうことです??」
「一般人じゃ、到底手に入れられないような額の報酬が約束されているわ。この仕事をしていればね。」
相変わらずのエロス溢れる唇を強調しながら話す麻里先生が唯に話を振る。
「唯ちゃん、この前、おこずかいで何買ったんだっけ?」
「軍用の無人航空機だよ!!」
――13歳の女の子が軍用の無人航空機を!?いくら稼いでるんだこの子。いや、そもそも一体どんな教育をしたらこうなるんだ??親の顔を見てみたいぜ...
唯が本田隊長の娘であることを知らない美来の思っていることを見透かしているのか、面白そうに笑みを浮かべる麻里先生。
「もうすぐ、お昼ね。美来くんは何か食べたいものとかある?」
「俺は何でも構いませんよ。唯ちゃんは何かある?」
「うーん。クレープかな。」
「それはデザートにね。」
などという平和丸出しの会話をしていた頃、外の演習場では特派と実動部隊による合同訓練が行われていた。この前の調査で初めて実戦導入された
ここでもう一度確認しておこう。
そして、銃自体の精度だが非常に優れているとラッセは評価している。威力そのものも従来と同等、またはそれ以上。現に以前の使用時には変異個体の身体を粉砕している。また、弾の種類も状況に応じて変えることが可能である。貫通性を重視するか、重みのある攻撃を重視するかで弾を選ぶことも可能だ。加えて、狙撃用ライフルのように使用したり、マシンガンのように使用することも、少しパーツをいじるだけでその場で変えることが可能なのだ。
続いて、
これらの新装備や従来の武器を使用して訓練は行われていた。光合成樹林内部とは異なり遮られることなく真っ赤な太陽が空からガンガン見守ってくれている。
「しっかし、暑いねぇ...」
もう3時間以上休みなしに続いていた訓練に小さな声で不満を漏らす祐介。特派の皆も思っていたが口に出さないようにしていたのにこの男ときたら...
「だから、とべって言ったのに...ゴミね」
本人にぎりぎり聞こえるように莉菜が呟く。疲労を隠せない千咲は苦笑いするしかなかった。
――それにしても、ほんっとに暑いし疲れちゃったな...
一周まわって、汗も出てこないほど疲れていた。一方、ほとんどの実動部隊の皆や藤堂や添木はまだ大丈夫だという顔をしていた。いや、藤堂だけなぜか筋肉をピクつかせながら恍惚とした表情を浮かべていたが、突っ込んだら負けだろう。
「よしっ、一度休憩しよう。皆、水分補給をしっかりな。」
ラッセが休憩の指示を出し、各々が動き出す。少し、空に雲がかかる。
「
添木が水分を摂りながら、訓練の内容を思い返す。それに祐介が何か答えている。ラッセ達もその近くで休憩をとる。そんな時ラッセが光合成樹林の方角をバッと見る。
――今...何か...
違和感を覚えたのはただの勘であり本能だ。だが、確信していた。そして、その違和感の正体はこちらに向かってきていた。
その強大な威圧感に添木や祐介、実動部隊のアレックスや黒くて丸いサングラスを着けた赤褐色の肌を持った男、それに皆のムードメーカーのルイスという黒人男性も顔を樹林の方へ向けた。他は未だその脅威の接近を感知出来ていない。
「全員休憩しゅ...いや、訓練終了。これより戦闘を開始する。繰り返す、これは訓練ではない。」
ラッセが今まで以上に強い口調でいい放つ。千咲や莉菜のように気付いていない者達は突然の指示に一瞬戸惑いの表情を浮かべるも、その言葉に反応し、すぐに武器を手にする。
「ベネットは
まず、ラッセは千咲に指示を出す。了解ですと、即座に動き始める千咲。そして、その脅威は光合成樹林第二管理研究所に侵入する。不安を煽るような警戒アラームが施設全体に鳴り響く。
――ここには変異個体を寄せ付けないためのdestruction ballの何倍もの威力がある同様の装置がある...それを抜けて来たということは...ッ!!
ラッセが溢れ出る
――この形は!?
ドォオオオオオオオォオオオオン!!!
驚異が皆の目の前に着弾する。その衝撃で
「あれって...まさか!?」
祐介が薄目を開けて目の前のものの正体を探る。
「ああ、体温も見た目も人間のそれと似ている...が、体表付近の大気が揺らいでいる。間違いない!
そう冷静に分析しているが、添木の目は血走っていた。
「まさか、そんな...」
「
莉菜も藤堂もあの日を思い出さずにはいられない。
皆がたじろいでいる間に、ラッセだけは既に
パァアアアン!!!
乾いた銃声が戦闘開始を告げた。
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