第12話 何気ない会話
「1週間後に第一管理研究所の調査かー。ってか、ほとんど現状に対する説明なかったな。俺が参加した最後の30分内容薄っぺらすぎだろ。」
「だから、会議なんてそんなもんなんだって、美来ッチ。会議なんてとばしてなんぼよ。」
美来の言葉を笑い飛ばす祐介。
「マジかよ?ほんとか?千咲も同意見??」
美来に質問された千咲は精一杯の笑顔で「うん、そうだよ。」と答える。それを聞いた美来の落胆した顔を見ながら、千咲はミーティングのラッセの話を思い返していた。
~~~
「ここでは、
ラッセは横目で本田を見た後、目の前にいる大勢の人々を一度に見渡し、大きくため息をつく。
「俺は隠し事は好かんのだがな...」
まあいい、と第一管理研究所の話を始める。
「あそこと連絡が取れなくなって2週間...状況はいまだ不明で、建物内に送り込んだドローンは全て通信途絶。まったく、状況は掴めていないというのは一週間前のミーティングでも言ったな?それから、依然として状況は変わっていない...というより、不明のままだ。しかし、昨日の実地訓練において、
会場全体が大きく騒めく。そんな中、南戸が静かに手を挙げる。
「ラッセさんはどうしてそう考えたのかしら?」
当然の疑問にラッセは答える。
「Professor.南戸の質問に答えよう。彼はその時、超巨大光合成樹の方角からも強い力を感じたと言ったんだ。そして、それらの強力な力を受容した彼の変異個体に対する索敵能力が著しく低下したんだ。つまり、これは変異個体より上位の力を感じ取った、つまり、遺伝子変異光線を感じ取ったと考えられないか?もちろん、より脅威的な変異個体の生体力場をキャッチしただけかもしれんがな...まあ、そういうことだ。」
南戸は後で詳細を送ってくださいと言い残し、それ以上は追及しなかった。
「まあ、Mr.美来について俺から言わしてもらうと非常に期待できる存在だと思う。さっさと全部話しちまうべきだ。知らせないことほど残酷なことは無いと思うが?」
その言葉に本田が反論する。
「僕もそうしたいのはやまやまなんだけどね...上が慎重な姿勢をを見せてるんだよ。それにアカデミーのような前例もあるし、
本田の言葉に、ラッセも分かったよと返事をしたのだった。
~~~
――私は美来くんに全部話してもいいと思うんだけどな...
「千咲どうしたんだ?ボーっとして...」
美来が怪訝そうに尋ねる。
「なっ、何でもないよ!あっ、そう、あれだよあれ、これから1週間何しよっかなって考えてただけだよ。」
「何するも何も、明日から美来ッチ以外は訓練でしょうよ。あーッ、嫌になるねぇ。」
「また、とべば?」
「莉菜ッチ、それはいくら莉菜ッチの提案でも厳しいかな...」
莉菜の言葉にタジタジの祐介。
「取り敢えず、私と千咲は部屋に戻るから。じゃあね。」
美人2人が去りまた、男2人になってしまう。祐介はハ~と大きく息を吐いた。
「俺も部屋戻ってもうひと眠りするわ。んじゃな、美来ッチ。」
手をひらひらさせて去っていく親友に別れを告げて美来は1人でぶらぶらすることにした。
――皆は明日から訓練なのか...俺は...
「あっ!もしかして、美来さんですか!?」
突然後ろから声がしたので振り返るがそこには、誰もいない。ここだよっと下から声が聞こえたので目線を下にやる。すると、そこにいたのは小学生か中学生か見分けがつかないくらいの女の子が一人立っていた。
――なんでこんなところに子供が...いや、待てよ。さっきミーティングで千咲の隣にも小さい女の子が座ってたな...
「あ、ああ。俺の名前は美来だけど、君は?どうして君みたいな小さな子がここに?」
とりあえず質問に答え、こちらからも質問をしてみる。
「小さくないよ。もう13歳!大人だよ。」
――うん!子供だ!!
美来は自分の前に立っている少女の顔を改めて見る。一応、美来はここで働いている人の名簿には目を通したのだが、こんな少女見たことがない。こんな子供が仕事なんて出来るのか疑問に思ったが、美来も人のことを言えた義理ではないので、そこは突っ込まないことにした。恐らく、何かしらの能力を買われたのだろう。とりあえず、名前を尋ねることにした。
「私の名前は本田唯。遠隔操作ドローンの操縦士だよ。美来お兄さん、もしかして暇?もしかしなくても暇だよね??」
本田という名前に本田隊長が一瞬頭に浮かんだが、あの熊みたいな男と、この可憐な少女では月とすっぽんほどの違いがあった。おそらく、名字が被っているだけなのだろう。美来は忙しいと言いたいところだが、残念なことに暇だ。しかし、何故だろう。ここで13歳の少女の前で暇であることを肯定することを、御年20歳の美来のプライドが邪魔をした。
――こんな小さな子ですら、ドローンの操縦士という役職があるというのに、俺ときたら......
「あら、若い子2人で楽しそうね。お姉さんも混ぜてもらってもいいかしら?」
大人の女性の声が2人の会話に入ってくる。その声の主は白衣に身を包んでおり正確なボディラインは分からないはずなのにスタイル抜群なのが一目で分かる。若干ウェーブのかかった長い髪のほとんどは後ろで束ねられており、柔らかそうなリップにどうしても目が行ってしまう美来。
――この人は名簿で確認した覚えがある。確か、ここの研究チームのチーフ、
「麻里先生!麻里先生、今暇??」
「ええ、忙しいけど、暇よ。唯ちゃんの相手をしてあげるほどにはね。」
――なんの葛藤も無く暇だと言った!?これが大人の余裕か!!
美来は自分の器の小ささにうなだれる。そんな美来を見た南戸が微小しながら声をかける。
「美来くんも暇?なんでしょ。唯ちゃんと一緒に私のところにいらっしゃい。あなたとは一度、話してみたかったのよ。あなたみたいな若い子とね?」
うふふと笑いながら話す南戸。その言葉と表情に美来の頬も自然と緩む。
「南戸さんも十分お若いじゃないですか。確か、27歳でしたよね。」
てんぱってしまったせいか、名簿に載っていたことは、ほとんど覚えている美来の口から流れるように南戸の年齢が飛び出す。
「あら、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。でも、女性の年齢を口にするのはNGよ。」
はっとした表情を浮かべる美来を、唯と南戸が揃って笑う。
「それと南戸って長いし、言いにくいでしょ?麻里でいいわ、美来くん。」
そうして、3人はその場を後にした。
~~~
夜、イギリスのグリニッジ天文台のとある建物の上に、2人の男は立っていた。1人は古賀透理だ。もう1人の男は長身で白いコートを身に纏っていた。
「
義仁と呼ばれた白いコートの男性はワインの入ったグラスを揺らしながら、古賀の方を向く。
「1週間後にあそこの調査なんだったね。彼にとっては初めての
そこまで言ってワインを口に含む。
「会いにいくのは、それからでも十分に間に合うだろう。」
そうか、と白いコートの男に同意し、古賀が続ける。
「恐らく、彼は何も知らされず、利用されているのだろうね。彼女のように。」
「ああ。奴等は他者を欺き、他者の意志をねじ曲げ、扇動する。新見美来には気付かせる必要がある。彼が何者で、どう生きるべきかを。もっとも、何よりも重要なのは彼が自らの意志で行動をおこすことだ。」
強い口調で話す白いコートの男の隣で、古賀はワインをグラスに注ぎ、空を見上げた。夜空には無限に星が広がっていた。
――この空から、全てが始まったわけだ...
夜空に突き上げたワイングラスの色は、星達の煌めきを受けて、とても美しかった。
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