第7話 未知なる道を
ババババババババババババッ
美来は光合成樹林上空にいた。しかし、ヘリコプターには乗っているわけではない。美来達がいたのはヘリコプターの下部にとり付けられたコンテナの様なものの中だった。
「そろそろだな。」
ラッセの声が聞こえる。
ヘリコプターから地面に球形の装置が落とされる。これは地面にいる生物を追い払うための装置らしく、あの大学での戦闘に使ったランプのような装置の強化版らしい。
まず、実動部隊の数人と藤堂がヘリから降下し、球形の装置、Distraction Ball、通称DBの周りの樹を切り倒していき、コンテナを降ろせるスペースをつくる。ただ倒すだけではスペースが出来ないのだが、藤堂が倒れた樹をヒョイとずらていったのだ。この馬鹿力が
そして、そのあとコンテナの様なものが殺虫剤を散布しながら光合成樹林へと降ろされていく。
ラッセが皆に衝撃に備えるよう促す。
ズシンという音をたて、地面についたコンテナ、すなわち、Base Containerの側面が音を立て展開する。
ベース内から武装した特別派遣部隊と実動部隊が外へと出る。美来もこの集団に混じっていた。害虫の被害がないようにと美来も軽装備をさせられていた。こうすることで肌の露出を控え、そして、体温の外気による影響を抑える働きがあるらしい。
暑いと思っていた樹林内は思ったよりも涼しかった。恐らく、緑の葉によって出来た影の下にいるからだろう。
――これが...光合成樹林!!
美来はあたりを見渡す。樹高30㍍にも及ぶ光合成樹が無数に地面から突き出ているのだから、気持ちはどうしても高揚する。装置のおかげか、生物はパッと見では見つけられない。そして、ラッセが皆に聞こえるように話す。
「よし、ここまでは訓練通りでいい感じだ。引き続き任務を続行する。BC待機班はここで待機。調査班は今回は分けずにいく。あくまで今回は実地訓練が目的だからな。」
そう、今回の主目的は調査はもちろんだが、美来が来る前の3か月間、すなわち、特派と実動部隊とが共同任務にあたっていた期間の様々なデータを基に生み出された、新しい戦略と新装備を試すといったものでもある。
このBC使用も新たな戦略であり、新装備なのだ。Base Containerとはヘリコプターにより移動可能な基地である。その耐久性は核シェルターに少し劣る程度で、ここでは十分な強度だといえる。ここには様々な機材や武器、食料などを置いておくことが可能で、従来よりも効率よく安全に任務を遂行できるというわけだ。
「ジー...みんな聞こえるかい?ヘリから本田隊長だ。上から見た限り異常はない。ヘリは7時間後ここでコンテナを回収し本任務を終了とする。不測の事態が発生した場合はすぐに連絡してくれ。検討を祈るよ。」
ヘリからの無線がBCを中継し調査班15人、つまり、特派6人、実働部隊9人の耳に届く。酸素濃度はまだあまり高くはないが、
ラッセが添木と共に、先頭を歩き始める。皆それに続く。樹林内は日影が大半を占めているというのに、陰性の植物が歩みの妨げになるかのように生い茂っている。そんな中、美来の警護として実動部隊の人が5人付いていた。本当に戦闘スキルは求められていないらしい。その中には女性も混じっている。
そして、これも光合成樹林には初導入らしいのだが、4足歩行の荷物運搬ドローンが4機付いて来ていた。名前を
「ここから先は、Distraction Ballの効果範囲外になる。全員十分に注意しろよ!!」
ラッセが皆に警告する。
草木が生い茂っているが、先頭近くの実働部隊の人が美来の通りやすいようにしてくれている。本当に至れり尽くせりで申し訳ない美来。
――しっかし、本当にでけえな... その内、変異個体ってやつが出てき―
突然思考が途切れる。間違いない、あの時の耳鳴りだ。美来の警護をしていた一人が異常を知らせる。ラッセは添木に目で合図を送る。頷く添木。
そして、数秒後
「いえ、異常はありません...やはり、彼の能力は不安定なのでは?」
ラッセが大きく首を横に振る。
「いや、恐らく美来の索敵範囲が広すぎて、添木の
やや不快そうな顔で添木はラッセに問う。
「僕より彼を信じるっていうんですか。」
「俺が信じるのはあくまでも自分自身だ。俺は何となくだが感じる。前100㍍くらいに
ラッセの言葉に押し黙る添木。それだけ、ラッセの言葉には重みがあるということなのだろう。ガタガタの地面の上をを添木は足を止めずに千咲に指示を出す。
「豊崎。瞳で前方を確認してくれ。俺の
莉菜がそこに口を挟む。
「酸素濃度基が準値を上回りました。」
「ラッセさんの予想どおりだけど、本来ここはOOZじゃないはずだよな。広がってんすかね、やっぱ。」
祐介が苦笑いで答える。
美来は頭をおさえつつ、実働部隊の皆さんに支えられながら前に進んでいた。
「いた!今の影はベース個体、
「待つんだ。ベネット。一体だけとは限らん。だいたいの位置が分かれば俺の
添木は脳に力を入れて他に異常がないか確認する。
「蜘蛛は捉えた。近くにある熱...! そいつの頭上に枝に擬態してる大型昆虫がいる。ベースは
了解ですと千咲が
ラッセは2人に発砲許可を出す。
ドンッという普通の銃の音はしない。しかし、静かに無数の弾が標的の弱所を吹き飛ばしたのを、ラッセは肉眼でとらえていた。
「
と、ラッセは惜しみない称賛をおくる。大きさが異なるとはいえ、大学での戦闘ではあれほど苦戦した変異個体を、この武器は一瞬でとどめを刺したのだから無理もない。
「しかし、弾を撃ち出す力を火薬から、電力に変えてしまっているのでエネルギーが長く持たないという欠点もあります。」
添木はその試作品、
「そうだな。しかし、期待できる。」
そういうとラッセは美来の方を向いた。美来の耳鳴りはひとまず治まっており、皆に大丈夫だと伝えていた。そんな美来を見て添木が口を動かす。
「新見美来。偶然の線はまだ捨てきれない。が、どうやら、お前の能力は本物の可能性が高いようだ。だが、敵を見つけるたびに体調不良を訴えていては―
「まぁ、その辺にしといてやれ、添木。今彼にそこまで求めるのは酷だ。」
ラッセは添木の言葉を遮るように口を開く。
「しかし、耳鳴りはなんとかしないといけないのは事実だ。恐らく、耳鳴りの原因は無意識下の恐怖心が逃げるよう警告をしているからなんだろう。美来。今から言うのはあくまで私見で、お前にも当てはまるか分からん...俺はいつも周囲を警戒するとき、周りを恐れない。ただ、静かに目を閉じ、呼吸をする。ただそれだけで分かる。自分自身以外の全てのものが教えてくれるんだ。それにお前は俺と違って、ここにる変異個体よりも上位の存在だ。本当に恐れる必要なんて何もないんだ。一度やってみるといい。」
ノーマルとは思えない助言に美来は返答に詰まるが、美来は言われた通り、目を閉じ、深呼吸をする。風の音を聞こえた。肌で温度を感じた。そして、思考が...加速していた!
「うっあぁあああぁぁぁ!!」
樹林内に木霊するその声に、その場にいた全員が警戒態勢をとる。
「美来!位置は?位置はわかるか?」
「ここから離れた2つの場所に大きな力が...あります。
「離れた場所!?...方角は!?」
「近い方は...ここから北西に10?㎞ほどに...そして、もう1つ...強い力があっちの方から...距離は相当あって分かり...ません。」
会話をしているラッセの表情が曇っていく。
「ここから、北西に10㎞...それにあっちの方向は...」
美来達は進む。未知なる道を...
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