第6話 出会い
「よし、美来くんが快く承諾してくれたところで、光合成樹林のエースを紹介しようか。」
誰も快く承諾はしていないのだが、そんなことはお構い無く、本田は近くにいた男の肩に腕をまわす。その男はその腕をサッと振り解き美来の方を向く。
「この人が実動部隊のエース兼、隊長のラッセだ。」
そこにいたのは、ヘリコプターから降りた時にいた筋肉モリモリで見るからに強そうなあの外国人だった。
「やあ、俺の名前はラッセ・ラル。43歳。実動部隊の現場指揮官を務めている者だ。昔はアメリカ軍で働いていたが、数年前からこの組織に所属することになり、この場所で働いている。俺は今あんたに戦闘スキルなんて求めちゃいない。お互い自分の長所をチームの為に使おうじゃねぇか。期待してるぜ、Mr.美来。あと、言い忘れていたがノーマルだ。」
新参者の美来を嘲笑うこともなく、真剣な面持ちで話を終えるラッセに美来は「こちらこそ、よろしくお願いします」と返す。43歳にはまるで見えない逞しい身体をしていた。
「ラッセは本当に強いからね。色々教わるといいよ。」
本田のその言葉にラッセは、「そういうのは止せ」と口ではなく表情で訴えるが、やはり、お構いなしに続けていく。
「じゃあ、続いては引き続きラッセの部下を紹介するかい?」
「いや、先にお前とその部下を紹介してやれよ。そっちの方が馴染みやすいと思うが?」
それもそうだと思ったのか、本田は部屋の外にいた数名の若い男女を部屋の中に呼び入れる。全員が日本人のように見える。その中には千咲もいた。本田隊長はまずは自分がと先陣をきって話し始めた。
「改めまして美来くん。僕の名前は本田優吾。47歳だ。世界自然科学監視機関(World Natural science-monitoring Facility)通称WNFの特別派遣部隊隊長で、この光合成樹林での出来事全体の指示をだす立場にある者だ。とは言っても、光合成樹林に派遣されてから3か月くらいしか経ってないんだけどね。」
「えっ?そうなんですか!?てっきりもっと長期間やられているものだと思ってましたけど...」
その最もな疑問に答えたのはラッセだった。
「俺達の部隊にとって専門外、つまり、capacity overなことが多くてな。手に負えなくなってきたんだ。だから、準進化者を率いる特別派遣部隊に応援をかけた。この特別派遣部隊ってのは対変異個体の独自の武器を有しているからな。それが3か月とちょっと前ってわけだ。」
なるほどと美来は思ったが、1つ重要なことを訊いてみる。
「あっ、あの? それは光合成樹林内が大変危険だってことですか?」
「あんたがどういう説明を受けたか、そして、上がどこまで話すのを許可したか、俺は知らんが危険だ。過去に何人もここで命を落としている。もともと俺達の部隊が派遣されたのは、前の奴らの手に負えなかったからだ。それにこうして今も応援を要請したわけだしな。しかし、あんたには繰り返し言うが、今は戦闘スキルは求めちゃいない。命を張るのは俺達だ。そこは信用してくれ。」
その言葉に確かな根拠がある訳では無かったが、美来はラッセの言葉を信用できた。彼はそれだけの力を持っているんだと感じさせられた。そして、その言葉に美来は大きく頷いた。
話しすぎだぞと苦笑いでラッセをジトーっと見つめていた本田がこう続ける。
「よしっ、気を取り直して僕の部下を紹介していこうか!まずは添木副隊長から。」
その添木と呼ばれた男を美来はどこかで見たことがあるような気がした。
――あれ? いつだ? っ!?
そう、その人物はあの時、屋上で美来に銃のような機械を使用した人物だった。
「僕の名前は
自分に高圧電流をお見舞いしてくれた上に、随分と偉そうな奴だな、と思う美来だったが、まあ先輩であることは確かなので溢れでる不満を抑えて、笑顔で「はい」と返事をしておくことにした。その笑顔がひきつっていない保証はないのだが...
「相変わらずツンデレだねぇ。次はえーっと、藤堂、頼んだ。」
相変わらず、優しくて軽いテンションで話を進めていく本田。そして、藤堂と呼ばれたこれまた日本人とは思えないゴツい男がハイッと大きな声とともに足を一歩前に大きく出す。
「自分の名前は
まさしく体育系の部活にいそうな脳筋代表みたいな人だが、性格は良いのだろうと感じさせる人物だった。
「おしっ、じゃあ、次は莉菜ちゃん。」
そう呼ばれた女性は、黒髪が綺麗な千咲に劣らない美人な女性だった。
「江口莉菜です。年齢は21歳。私も藤堂君と同じで特別な役職はありません。特別派遣部隊の戦闘員です。一応ノーマルです。よろしくお願いします。」
静かにそして淡々と喋る女性だった。凛としているとでも言うのだろうか?
しかし、本田が「莉菜ちゃんありがとねー」と言ったとき、ビクッとしていたのは何故なのだろう?
そして、また同じように、本田に呼ばれた男が同じように一歩前に出て話始める。
「はいはい、こんにちはー‼俺の名前は小野祐介。オノユーって呼んでくれていいぜ。あーっと、もちろん役職なしね。年齢は21でミライッチより一個上だけどあんま気にせず、気軽にしてくれよな。なんてったって、この組織には俺以上に社交的で人間できてる奴がいねぇからなぁ~。因みに、一応ノーマルね。よろしくな。アハハハハハハハハハ。」
自称、人間ができている男のスピーチを皆、様々な面持ちで聞いていた。特に隣で莉菜がまるでミジンコでも見るような表情で眺めていたのは印象的だ。一方、美来はこの組織にもこんな軽い感じの人がいるのかと少し安堵していた。
――こういう人もいるんだ。ってか、日本人ばっかなんだな...
そして、最後に呼ばれたのが千咲だった。
「私の名前は豊崎・ベネット・千咲。年齢は美来くんと同じです。特別派遣部隊の役職なしですが、
皆の前なのでいつもとは違い敬語を使っていた。話終えると美来の目を見てニコッと微笑む。
――美人だっ!!
思わず心の中で叫んでしまう。それを遮るように本田がこう続ける。
「以上が僕の直接の部下達だ。千咲くん以外全員日本人だし、千咲くんも日本語喋れるしね、すぐに仲良くなれると思うよ。2週間後の調査までに交流を深めておくといいよ。」
ふぅっと大きな溜め息を1つ吐いて本田はラッセにそっちの部下の紹介も頼むよと言い、次々に外国人の実働部隊が英語で紹介されていく。全員で30人を越えていたが、美来はほとんどの人の名前を覚えていった。
そうこうしている内にそれも終わり、本田が質問はないかと問うてきた。美来は、本質的な質問をしてもはぐらかされるのは目に見えていたので簡単な質問を投げ掛ける。
「えーっと、特別派遣部隊とかラッセさんの部隊とかって、世界自然科学監視機関でどういった関係にあるんですか?」
本田がよくぞ訊いてくれましたといった表情で話始める。
「それを説明する前に、世界自然科学監視機関の全体像を説明しようか。WNFは世界の自然に関する様々な問題を扱っている組織だ。そうなってくると、それに応じてそれぞれに専門性の高いチームを用意しなくてはならない。例えば、戦闘部隊や現地調査部隊や研究部隊に分けたりね。そのなかで組織全体で共通価値のある階級を絶対階級、そして、配属された部隊の中で与えられる階級が部隊階級と呼ばれているんだ。絶対階級っていうのは通常の軍隊とかと違ってSSS~Fまでにランク付けされるものなんだ。まあ、同じ絶対階級でもこれに加えて、アルファベット表記されない特別な地位もあるんだがね。そして、部隊階級がさっき言っていた特別派遣部隊隊長とか実働部隊隊長とかってやつさ。」
「因みにお二人の絶対階級は何なんですか?」
「僕もラッセもSSだよ。けれど、部隊階級が特別派遣部隊隊長の方が、実働部隊隊長より高いんだ。だから、ここでは僕が全体指揮をとり、ラッセに樹林内の指揮を任せるといった形になるんだ。それにラッセは戦い専門だしね。」
「要するに、別々の部隊を光合成樹林では一時的にミックスして1つの部隊を組織するって感じなんですね。」
「その通り。ここにいる部隊は、未来君と僕を含めた7人の特別派遣部隊。ラッセ率いる大勢の実動部隊。そして、第二管理研究所の研究部隊と調査部隊だ。その全体指揮を任されたのが僕ってことだね。」
案外凄い人だったのだと再認識する美来は一番気になっていた質問を最後にぶつける。
「俺はいつ、光合成樹林に行くことになるんですか?」
本田は十分に間をおいて、ゆっくり口を開く。
「2週間後、新人研修もかねて調査に行こうか。」
間のわりには、思いのほか軽い口調だった。
――2週間後に俺が...
好奇心も不安もあった。しかし、平静をたもっていられた。何故かはわからない。
ただ、確かなことは、その時、美来の瞳には仲間達が映っていた。
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