第2話 静かな目覚め

 警報機が鳴り響く中、美来はその大きな生物と対峙する。


「多足亜門唇足綱.....むk―


最後まで言葉を発っせさせないかのように、それは尋常でない加速度でこちらに突っ込んでくる。


「なっ!!」


――避けきれな...


ブゥアアァァァァァンッ!! プシューーーッ!!!


――!!!!!!!!


その大きな音は、美来の後ろから近づいてくる。


――なっ!後ろにもなんかいるのかっ!?


その背後からの近づく脅威おとは美来の横を通り過ぎ、大きくて黒色の長い胴体をうねらしながら迫り来る前方の脅威かげへと飛んでいく。瞬きをする暇もなく、そ美来の前5メートルあるか無いかの場所でボゥンッという音とともに2つの脅威がぶつかり、灰色の煙がその生物の頭の辺りを包み込む。


「後ろに跳んで!!」


誰の声かはわからない。しかし、声の主などどうでもいい。美来は反射的に後ろに大きくバッと跳躍する。ドンッドンッと重い音が空気を揺らし、その次の瞬間


ボシュッ!ドブァァァァァァァンッ!!!


灰色の煙が赤い炎に変わる。酸素濃度が高くなっていたせいか周りの紙などにも一瞬で燃え移り、机の上にあったガラスの置物が割れ、その破片が美来の額をかすめる。バッと美来は声の主を視界にとらえる。


「あなたはさっきの...」


美来はその声の主、あの清掃員に困惑の顔を向ける。


「急いで私の後ろへ来て。」


さきほど、ちらりと見えた通り、顔立ちはハーフで美人さんだった。清掃道具が入っていると思っていた少し大きめのカートはモーター音を立てながら、自動で彼女についてきている。ドローンか何かだろうか?


パチパチと燃え盛る炎の中から、キリキリと鳴き声を発しながら黒い煙と赤い炎の中から這い出し長い体の向きを変え部屋の奥へとシャァーッと進んでいく。そのスピードは美来に向かってきたときとそう大差ない。その後ろ姿に拳銃で追撃を加えながら呟く。


「やっぱり、これだけじゃダメだったか...」


「あなたは一体...」


真っ直ぐ、清掃着の女の顔を見据えて言う。


「一般人に言っても分からないことです。あれは私が仕留めますので、あなたは部屋の外で待機していて下さい。このままこの部屋の酸素濃度が上昇すれば酸素中毒になる可能性もあります。とにかく、急いで!」


あまりの剣幕に美来は言いたいことを胸に押し込んで、言われるがままに小走りで部屋の入口へと下がる。


「絶対に来ないで下さいよ。それとこれを。」


ガスマスクのようなものを手渡される。


「これを付けてそこから動かないで下さいね。」


美来は黙って首を縦にふる。それを確認すると、清掃着の女は走ってあの生物を追って行った。そんな彼女の後ろをカートが追尾していくのを、美来はただただ見つめることしか出来なかった。



~~~



ドンッ!ドンッ!!



階下から重たく鳴り響く聞き慣れない音に癒紗は困惑していた。その小さい体が小刻みに震えてているのは気のせいではない。


――美来...下で何やってんのよ.....ブザーみたいなのが鳴ったと思ったら、爆発音みたいなのも聞こえるし...実験室で何かあったんじゃ.....


ババババババババババシュッゥゥゥゥゥゥー!!


今までで一番大きな音が連続で聞こえてくる。ビクッと体が反応し、普通でない状況に目が潤む。とにかく、ここを離れないといけないと感じた癒紗は足に力をいれる。しかし、思うように立つことが出来ない。めまいもする。頭もクラクラしている。


――えっ?何これ.....


思うように体が動かないのだ。まるで毒ガスでも吸い込んだような気分だった。癒紗は手すりに掴まり、目を閉じる。そうすることで、めまいが改善するかもしれないと考えたからだ。10秒くらい経ってから目を開ける。やはり、視界がおかしいと思う癒紗。何故って、目の前に有り得ない大きさの生き物がいたから...黒くて足を沢山生やした生き物。


――ムカデ.....?


ただムカデがいるだけならば、自分の目を疑うことはない。ただ、目の前にいるムカデはどう見ても8メートルくらいはある。


「いやぁぁぁあぁああぁあああァァァァァァァ!!」


癒紗は叫ぶ。ありったけの声を、悲鳴をあげる。頭痛も目眩もするが、それでも恐怖が先行し、音となりエントランスから建物全体に響いていく。


「いや、いや、いや.....」


涙で顔がぐしゃぐしゃになった顔を見つめるのは一匹の大きなムカデ。癒紗の足は動かない。動かすことが出来ない。


数秒後、ムカデは加速し、柔らかい人間の肉を食していた。



~~~



 美来はその声に聞き覚えがあった。


――癒紗!?癒紗の悲鳴が!!!


エントランスに向かってダッと階段を駆け上がる。階段の途中で邪魔なガスマスクを脱ぎ捨てる。


――いまの声はなんだ!頼むっ...何も、何も起きていないでくれ。


息を荒らげることなく、一階に飛び込む。そこには信じられない光景が広がっていた。床に赤い液体が流れている。それを辿った先には、あの見覚えのある害虫が癒紗の腹の辺りに噛みついていたのだった。


「てめぇ!何やってくれてんだよ!!!」


感情が声になり、大気を揺らす。美来の表情にはさまざな感情が同時に現れていた。

そして、声に驚いたのか、ムカデは大顎を癒紗から離し、サササッと距離をとる。美来は血だらけの癒紗へと走り寄る。


「癒紗っ!!癒紗ァァ!!」


呼び掛けには答えない。興奮して頭に血が上ったせいか、美来の額の傷から癒紗の顔に赤い液体が垂れる。しかし、そんなことはお構いなしに、美来は急いで自分のTシャツを破って癒紗の止血を試みる。


――血が止まらない!


そうしている間にもムカデはこちらの様子を伺っている。美来は止血をしつつ、ムカデからは目をはなさい。その目には殺意が滲み出ていた。その場は圧倒的な緊張感で満たされる。


ザシャアァァァァ!!


ムカデが美来達に突進をかける。癒紗を庇うように身を構える。自分の命を引き換えにしてでも癒紗を守らなくてはならない。美来はそう決意を固めていた。


ズガガガガガガガガガガガッ  


美来に迫り来る黒い影に銃弾を浴びせたのは、やはりあの清掃着の女だった。


――ズンッ!  プシュー!!


続けざまに、ムカデと未来達とを隔てるように先程と似たような灰色の煙を充満させる。ムカデは大きな体を翻し、煙から急いで離れる。どうやら、ムカデはこの煙が苦手らしい。その隙に、女は美来たちの方へ駆け寄る。その背後にあのカートの姿は無い。


「あなた!大丈夫!?まさかもう一体いたなんて...」


女の目に腹から血を流す癒紗が映し出される。


「な...そんな......」


驚愕の表情を浮かべながら、腰のポーチから何やらスプレーのようなものを取り出し、傷口に吹き付ける。出てくる白い物体が強引に傷口を塞ぎ、血を止める。


「まだ心臓は動いてるわ。あなたは怪我はない?」


「俺は、俺は大丈夫です。癒紗は...癒紗は大丈夫なんですか!?」


そう女に詰め寄る美来。


「わからない。あの生物のスペックが分からないうちはね。ベースになったの個体から察するに毒を持っている可能性が非常に高い。正直言って危険な状態です。ここから動かすことは今は無理。先に奴を処分しないことにはどうにもならない...っ!!」


美来と話していた女が突然驚きの表情を浮かべる。


「癒紗に何かあったんですか!?」


「私が驚いているのは、この子のことじゃない。どうしてあなたマスクをしていないのに平気なの?あのムカデが動いてるってことはここの酸素濃度は...」


「平気なのはあなたも同じじゃないですか!」


「私はあなたとは体の構造が違うから―!


キリキリキリッ


と女の言葉を遮るように大ムカデの鳴き声が煙の向こうから聞こえてくる。灰色の煙がだんだん薄くなっていく。どうやら煙というよりは細かい粉が舞っているという方が適切な表現かもしれない。大きな黒い影がこちらの様子を伺っているのだ。ガチャガチャと急いでマスクを癒紗に装着させる女に美来は尋ねる。


「この現状を打開するにはどうすればいいんですか?さっきから突拍子のないことばかりで頭が追い付いていなかったんですが、あなたが使っているものはどう考えても一般人が使っていいものじゃない。それに、あの化け物の存在を予見していたようにも見えます。あなたは警察や自衛隊なんかよりも上位の組織に所属している...そうなんでしょう?こいつを助けるための策を教えてください!!」


必死な美来に、女は告げる。


「助ける方法はこの子が死んでしまう前に奴を処分する。そして、安全を確保した上で、救出部隊にこの子を引き渡す。そうすれば、助かる可能性はあるわ。」


女は癒紗の隣に、ランプのような物を置きスイッチを押す。ガシャンとランプが点灯する。


「これは、特殊な光と音波そして臭いでああいう生物を寄せ付けない装置よ。まあ、慣れると寄ってくることもあるんだけど...とにかく、私があいつを引き付ける。あなたはこの子の傍にいてあげなさい。あと15分もしない内に救出部隊がここに到着するわ。この建物の下からは救出部隊が、そして上では私が屋上まで奴を誘導したものを制圧部隊にとどめを刺してもらうから。」


「とどめ刺してもらうってことは、1人だけでは遂行しえないということなんですか?」


「拘束用ドローンは地下で使ってしまったし、残りの殺虫グレネード弾であれを仕留め切るのは正直言って厳しいし... 私に出来るのはあなた達の命を救うために奴の注意をひいて時間を稼ぐくらいね。」


「あなたは大丈夫なんですか?」


ふっと女は歯を見せ笑う。


「私の心配してくれるんだ?大丈夫。あなたはその子の手ででも握ってあげなさい。」


歳はそう変わらないであろうその女は、無理に明るい口調でそう告げたように見えた。もう一度、灰色の煙を打ち出し、美来達とムカデとの間に煙の壁を作り直す。。そして、マシンガンを片手にそこに突っ込んでいく。


ズガガガガガがガガガガガガガッ


放たれた銃弾は奴の胴体にヒットしているものの、火花を散らしながら固い表面に弾かれていく。一見無意味なこの攻撃がムカデの注意を美来達から逸らすためのものであることを見抜くのは容易かった。美来は願った。この怪物を一刻も早くこの場から消してほしいと。

マシンガンから放たれる無慈悲な銃弾の嵐が少しずつではあるものの鎧のような体に傷をつけていく。一部分ではあるものの玉が体の内部に食い込んでいるようにも見えた。巨大ムカデは大きな体を捩じらせ女の方へ突進を仕掛ける。そのまま攻撃対象が美来達から外れると美来も清掃着の女も思った...しかし、何ということだろうか!?ムカデの体は女と正面衝突する瞬間に大きく身をひるがえし、美来の方へさらに速度を増して向かってきたのだ!!


「なっ! どうしてそっちに!! 装置があるのに!?」


清掃着の女はムカデの方向転換による風圧でバランスを失ったため、攻撃の手が止まってしまう。美来は猛スピードで接近する巨大ムカデと真正面から対峙していた。まるでブレーキがない漆黒の機関車と素手で喧嘩をしろと言われているような気分だった。普通なら不可能なことだ。諦めるほかにないことだ。しかし、美来の後ろには守らねばならぬ人がいるのだ。美来にはこの一瞬の時間がとても長く感じられた。思考が加速するのを確かに感じた。思考が加速すると言っても、この状況を打開する策など浮かぶわけではなかった。しかし、意識の底で美来は確信していた。右手でペンダントをギュッと握りしめる。何を確信していたか?それは愚問と言わざるを得ない。


――俺たちに、癒紗にこれ以上近づくなら、奴は死ぬと!!


美来の表情は死を恐れているものの顔では無かった。その瞳には最早、体が大きいだけのムカデなど映ってはいなかった。右足を半歩、美来は前に出す。圧倒的な威圧感プレッシャーがその場を支配する。巨大ムカデはそれを敏感に捉え、そのスピードを緩め、美来達の周囲を円を描くようにして様子を伺い始める。

清掃着の女は困惑した。原因はムカデが殺虫効果のある煙に近づいたことでも、装置のある方に突進していったことでもない。その困惑は、ただの大学生であるはずの人間から何故あれほどの気迫オーラがで出ていたのかということに対してであった。


「すいません!!」


美来は大きな声で清掃着の女に呼びかける


「どうしたの!?」


反射的に応答する女。


「こいつの狙いはおそらく俺です。何故かはわかりませんが、こいつは俺を殺したがっているように感じます。。さっき、こいつを屋上に誘導するって言ってましたよね...俺が誘導します!!あなたはサポートをお願いします。」


そういう美来にはもう先程の威圧感プレッシャーは感じられなかった。


「危険よっ、危険すぎる。あなたはその子と一緒に―」


「それじゃあ、癒紗は危険にさらされたままだ!とにかく、サポートをお願いします。」


ダッと走り始める未来。清掃着の女は止めなければと思ったが、現状それがベストの選択であることを否定は出来なかった。女は残り少ない手持ちの武器と残弾数を確認し、覚悟を決める。二階へと繋がる階段へと走っていく美来を目で追いつつ、ムカデの動きを把握する。


「そのまま階段を上って!!」


女は階段の裏へと回り込む。ここの階段はスカート覗きをするなら打ってつけの構造になっているおり、階段の裏側から階段を上る者を下からみあげることが出来るようになっていた。ただ、今ここを上っていくのはスカートをひらひらさせる女性ではなく、全力疾走する長身の男と、それに迫り行く漆黒の化け物なのだが...


美来は二階へと駆け上がり、迫り来る影が階段に差し掛かった瞬間、女はマシンガンをムカデのボディにお見舞いする。ムカデの鎧のような表面の甲殻とは違い、防御力の低い下からの攻撃は体内に重く響く。同時に、無数の足が有数の足へと誘われていく。大きな体は少し速度を落とし、蛇行しつつも美来との距離を縮めていく。女は続けざまに殺虫グレネード弾を撃ち込み、ムカデの気門からガスを注入させようとする。


美来は二階にあった消火器の栓を抜き、しつこいストーカーから逃れるための時間稼ぎのために、それを放り投げる。ムカデの目の前の床にガンっと落ちると中身が噴射する。美来は次に消火栓へと手を伸ばそうとするが、消火器が何の時間稼ぎにもなっていないことに気付き、再び走り始める。


――屋上に! ひとまず、三階への階段にこいつを誘導するんだ!!


後ろから直線的に奴が突っ込んでくるのを感じる。美来は横に大きく跳躍する。

ズオオオォォォォォォォォォォォォォォォォっと美来のすぐ横を通り抜けていく長細い巨体は階段の前でこちらに向き直す。


――もっかい、こいつのタックルを避ければ、階段を昇れる!


身構える美来。迫り来る漆黒。美来の足に力が入る。


――今!!!


跳躍しようとしたその時、地面に付着していた消火器の薬品で足を滑らせる。


その時ちょうど、銃を片手に二階から上がってきた女はその不運を目撃してしまった。女は悟る。鉛玉の嵐でも、殺虫グレネードの濃霧でも、最早それの軌道を変えることは不可能だと。そして、その絶体絶命からこの男を助けるための方法は一つしかないと!


美来は何とか身をよじり、回避を試みる。しかし、倒れゆく体は思うようには動いてくれない。ヤバい!今は先程のような圧倒的で奇妙な感覚に包まれることはなかった。死が近づいてくる。


ドンッ


これは美来と迫る影が接触して大気が震えた音ではない。そうなってしまう直前、清掃着の女が美来の傾いた体に体当たりした音だった。突き飛ばされた美来の目に映ったのは、自分が居た場所に、ムカデが死を運んでくる場所にいるあの女の姿だった。その表情には必死さが滲み出ていた。死ぬ直前の人間の顔にしては凛々しく、そして、少し美しかった。


――死ぬ? 俺を助けて、彼女が死ぬ??


沸々と湧き上がる、得も言えぬ感情。蘇るあの感覚。今この状況が美来の深層心理を刺激する。意識の底で何かが叫んでいる。自分にはこのクソったれな状況を打破する力があると…再び目の前の映像がゆっくりなものへと変化していく。彼女の頭をピンポイントで砕くように漆黒の頭がすぐそこまで向かってきていた。


無意識だが美来は確信する。自らの力を。それは理屈ではなかった。生まれたての赤ん坊が何も教わらずとも産声を上げるのと同様に、自分がどうやって自らの体を動かしているのか説明出来ないのと同じく、美来は無意識下で、目の前の黒いヒョロガリの体を粉微塵に粉砕出来ると、説明は出来ないが、そう確信していたのだ。これは恐らく遺伝子に規定されている力なのだと思った。美来は倒れゆく中で、顔を巨大ムカデの胴体に向ける。


―ブウォオオオオォォォォォォンッ―


本当にこんな音がしたのかは分からない。ただ、女はそんな音がしたような気がした。そして、その感覚と同時にただの大学生の眼前の空間が歪み、その歪みがムカデの胴体と重なった刹那!!!


ドブァアアアアァァァァァァァァアンッ


と、今度は確かに大気を震わし、建物全体に轟音が響き渡る。女の目の前に広がる光景は、奴の自慢の鎧が砕け、肉が飛散し、体液を撒き散らしながら、不自然に動き続ける真っ二つになったムカデの体の後ろ側だった。前方はというと、女の頭に激突する直前、ムカデの胴体が千切れた瞬間、軌道が変わり、頭の横スレスレを通り過ぎ、同じく、体液を床に垂らしながら動き続けている。


「一体...何が? まさかこれは... そんな!?」


女はうわごとのように呟く。一方の美来は


「なっ、ムカデが真っ二つに!? どうして...」


女は驚いた表情で美来に話しかける。


「あなたは進化者エヴォルなの? その力...」


「エヴォル? 力って何のことですか? そんなことより、あの化け物を真っ二つに出来るんならもっと早くやってくれれば良かったのに...」


清掃着の女は、目の前の男が質問をはぐらかしているわけではないことに、すぐに気づく。そんな二人の問答を後目に、前半分になった方のムカデはその場から逃げるように三階への階段を昇っていく。


「私の名前は豊崎・ベネット・千咲。あなたの名前は?」


「お、俺の名前は新見美来ですけど。どうして...さっきまでは教えくれませんでしたよね。名前...」


「ちょっと、いいえ、すごく状況が変わったからよ。」


少し歯を覗かせて笑う彼女はとても美しかった。美来がそれに見惚れていると、外からヘリコプターの音が外から近づいてくる。


「来たみたいね。さあ、上にあがって最後の仕上げといきましょうか。」


美来と清掃着の女、改め千咲は三階へと足を踏み入れる。あの化け物が通った後は体液を見れば一目瞭然だった。


ズガがガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガッ!!


屋上へと続く階段の方からけたたましい銃声が鳴り響く。しかし、それはほんの数秒だった。


ダッダッダッダッダッ!


次から次へと重武装の人間がライフルを構えて降りてくる。


「あなた達は、二階にいる化け物の体の一部を処理しておいて。一階の重傷者の保護、並びに、地下で拘束している変異個体の移送は予定通りお願いね。瞬は上?」


隊員の一人がと答える。千咲は礼を言うと、屋上へと歩み始め、美来にも付いてくるように指示した。


「もう大丈夫よ。残りのことは制圧部隊に任せればいいしね。」


「ゆ、癒紗の状態は!?」


少し待ってねと言い無線機のようなもので誰かと連絡を取り、美来の方に向き直し口を開く。


「非常に危険な状態らしいわ。これから集中治療室に入ってもらうようね。」


「そ、そんな...」


「でも、今そのことを思い悩んでも仕方がないわ。きっと助かるって信じましょう。」


屋上へと続く階段に差し掛かる。階段に漆黒の鎧に無数の穴を空けられた、この一連の騒動の加害者の姿があった。美来はそれを横目に足を前に進めた。目の前の扉からは陽の光が入り込んでいた。先に千咲から、続いて美来が扉の外へでた。


雲一つない青空の下、屋上には大きなヘリコプターが一機とまっており、見たことのない機械などが多数あった。また、そこにいた人達は一人を除いて皆、重武装をしていた。その例外と千咲が真剣な面持ちで話し始める。相手の表情がみるみる内に曇っていく。そして、胸の辺りから見たことのない機械の銃のようなものを取り出した。千咲はそれをとめているように見えたが話の内容まではわからない。


ただ、わかることが一つ。その男は銃のような機械を美来に向け、トリガーに指をかけた。そして次の瞬間、美来の意識は途切れた。































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