第3話 運命の出遭い

             新しい病院

 通院を辞めてからの、彼の病状は増々悪化の一途をたどった。

部屋中を無水アルコールで消毒する一方、洗浄行為を避けるために、

外出する事もままならなかった。

 

 そんな生活をし続けて半年後、

両親が強迫神経症の外来を行なっている病院を探し当て、

投薬治療を行うことになった。

 彼は薬を飲み続けたが、副作用がキツくて薬を一時期止めてしまった。

それに観念して家族が家を出ることになってしまった。

 彼は今までに何度も梯子を外されてきたので、仕方がない事と思えた。

彼は広い家の中、独りで住む事になった。


             SDガンダムGNEXT

 勉強も止めて引き籠った彼がする事といえば、ネットサーフィンである。

2ちゃんねるを何気なく見ていたら、偶然あるスレッドに目が留まった。

 スーパーファミコンで1995年12月に発売された、

SDガンダムGNEXTの改造が行なわれていたのである。

改造の内容は、登場するMSのパラメータや画像を変更するといったものである。

 彼もこのゲームの愛好者だったので、

このゲームに対する願望や不満点を長年抱いていた。

彼はこの改造に携わりたいと瞬間的に思えた。それと同時に、

自分に改造なんて出来るのかとも考えた。

 とりあえず、GNEXTに未登場のMSの画像を描いて、

投稿サイトに送ってみた。

 数日経った頃、絵師のような人が手直しをした画像を描いてくれた。

長年認められなかった自分の行動が他人に受け入られる瞬間であった。


 彼の中で何かが動き始めたようだった。

 彼は再び投薬治療を受けようととも思えてきた。


          改造GNEXT始動

 彼は投薬治療をしつつ、毎日朝起きてから夜眠るまで

GNEXT改造に没頭していた。

 彼が最初にした事は、先人達が調べてくれた

パラメータや画像データを学ぶ事だった。

 それと同時に彼はExcelで簡単なツールを作ろうとしていた。

彼は経済学部卒だったので株に興味があり、

学生時代から株をたしなんでいた。結果は散々だったが…。

 その過程でExcelのマクロやVBを習得していた。

お陰でGNEXTのデータ改造ツールを作る事が出来た。


         運命的なアプリケーション

彼がデータ改造を修了した頃、GNEXT改造が閑散としていた。

データ改造だけでは出来ることが限られていたからだ。

 彼は世界中のスーパーファミコンの改造サイトの検索閲覧を繰り返していた。

その時幾つかの改造アプリを探し当てた。とりわけ、

・snes9xDebugger

 このアプリのお陰で改造GNEXTは完成しなかったであろう。

 GNEXTはSA1というCPUを搭載したカートリッジである。

 SA1のプログラム処理をテキスト化してくれたのである。

 偶然にも彼が改造を始めた頃に公表されたアプリである。

・vSNES

 スーパーファミコンのRAMの内容を可視化するツール

 パラメータの追跡や画像データの収集に役立った。

 これも彼が改造を始めた頃にGNEXT改造向けの仕様になった。

が、彼との運命的な出遭いとなった。


         プログラム改造

 彼が始めて改造したのは、リ・ガズィのBWSの射出プログラムを

ガンダムのGファイター分離に適用する事だった。

 これはMSに与えらえれたユニット番号をフラグにしていたので、

ガンダムのフラグを追加するだけで改造できた。

コロンブスの卵のようなもので、言われてみれば誰でも出来そうである。

しかし、スーパーファミコンのアセンブラというプログラムを

マシン語をハンドアセンブルしなくてはならなかった。

そして何十万行というテキストから一行を探し当てなくてはならなかった。


         三つ子の魂百まで

 彼は幼少のころ、ぜん息ぎみで家の中で過ごす事が多かった。

そして彼の家は貧しく、遊ぶものがろくに無かった。

彼は何故かカレンダーに興味があった。チラシの裏にひたすら

カレンダーを書いていた。

そうしているうちにカレンダーの規則性を見つけていた。

何年か後の曜日を当てたりしていた。数列も知らない幼児が…。

 彼にはこういった背景があった。


         改造GNEXTの隆盛

 Gファイターの分離が成功したら、次は戦闘中にコンピュータがミサイルを発射したら

次の攻撃を仕掛けてこないのを修正した。何十万分の一を彼は的中した。

 GNEXTにはエネルギーゲージが短い欠点があった。

パラメータ改造では全数値を2倍や3倍にしなくてはならないのを

彼はプログラム改造でゲージを引き延ばすことに成功した。

 プログラム解析をしなければ出来ないパラメータ修正を行えない改造もあった。

GNEXTにはシナリオモードがあって、彼はプログラムとパラメータの

相関関係を調べ上げ、シナリオ変更に成功した。


         フルアーマー爆破システム

 さらに彼は大掛かりな改造も行った。

デンドロビウムがやられるとステイメンで復活するシステムを解析した。

それをスーパーガンダム・フルアーマーzz・ペーネロペー・V2AB・X1フルクロス

に適用したのである。

 この改造は何年間かかったが、彼の執念が実って無事完成した。


          角システム

 彼はオリジナルプログラムも編み出した。

 ガンダムシリーズには数多くのカラーバリエーションMSが存在する。

彼は独自プログラムで1体のユニットデータで複数のバリエーションに

対応する事に成功した。

MSのレベルが上がると色が変わったり角が生えたりするのである。

 さらに所属が変わるとガーベラ・テトラがGP4ガーベラになったりするのだ。


          バグ修正欠点克服

 GNEXTには数多くのバグや欠点が存在した。ある条件で攻撃が出来なくなったり、

ユニット数を数え間違えたり、宇宙空間で地上用MSを製造して工場を使用不可にする等。

バグだけで20ヶ所以上あった欠陥商品であった。現在なら修正パッチで対応出来るが、

当時では仕方がなかったことなのかもしれない。

 彼は黙々と粛々と改造し続けバグや欠点の克服に成功した。


           BGM追加

 彼が行った最後の改造がBGM追加である。GNEXTはX・GXの前2作には数多くの

地形ごとの戦闘曲があったのだが、GNEXTにはたった3曲しかなかった。

彼はSPCデータを解析してX・GXの曲データを移植する事に成功した。


           長いトンネルを抜けて

 彼は改造GNEXTに10年以上の時間を費やした。その間には投薬量も変化し、

改造当初は人間の限界量まで服薬していたが、GNEXT改造で自己実現するにつれ、

病状も回復し投薬量も激減したのである。

 もし、GNEXT改造に出遭わなければ、彼は一体どうなっていたのであろうか?

恐らく悲観した両親に殺されていた事だろう。

 彼はGNEXTを完成させるために宿命づけられていたのかもしれない。

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