第19話乱戦のち出発

黒装束がまた一人倒れる。


レテは止まらずに目の前の敵の顎を手甲で包まれた拳で撃ち抜き、隊長格のところまで突き進む。

しかし、奥へ行けば行くほど徐々に敵に囲まれてしまう。ついにレテは包囲されてしまった。


「小娘、調子に乗るのもいい加減にしろよ」

黒装束の隊長が包囲に割って入り、彼女の目の前に現れる。


「レテはレテ。小娘じゃない」

レテは拳をぎゅっと握り足を広げ腰を落とし、構える。


「レテ、お前、嫌い。ノエルの次に、嫌い。だから、本気」

ソフィアが、仲間が嫌いな奴は自分にとっても嫌な奴と認識する彼女はそう言うと拳をぐぐぐと高く上げると


「喰らえ、牙城破砕」

一気に地面に叩きつけた。

地面が激しく地震のように揺れ、包囲していた者たちは拳の風圧で仰け反り身動きが取れない。そこに地面がレテを中心に鋭いトゲのように変形し、身動きがとれない黒装束たちに突き刺さる。包囲していた全員が悲鳴をあげる中、黒装束の隊長だけはいつの間にか彼女の技の範囲外へと逃れ無傷で立っていた。


「アサト族の技か…」

隊長はそう呟くと、跳躍し、建物の屋上へと着地すると消えてしまった。













「みなさん、ご無事でしたか!?」

ソフィアがギルボアたちのところへ駆けつけ、声をかける。


「おーう、大丈夫だぞ。…人もいなくなったことだしこれでいけるな」

ギルボアは心配してくれてありがとうなとソフィアに返事をする。戦闘の間に大通りの人々は逃げることができたようで門までの道は人がおらずがらんとしていた。


「どうしたのーレテ?えがおでいこうよー!」

にこにこ顔のノエルがレテを呼ぶが彼女ははふてくされた顔をしたままソッポをむく。


「どうしたのでしょうか」

アイリスとソフィアがレテの様子に疑問を持つがギルボアは彼女の側に近づくと


「…あいつを倒せなかったのがそんなに悔しいのか?」

と声をかける。


「レテの技、あいつ、知ってた。なんで?」

レテはギルボアに尋ねた。


「ほーそりゃなんでだろうなぁ。でもな…もしかしたらまたやりあう時が来るかもしれねぇ。その時はガツンとぶちかましてやれ! な?」

ギルボアは拳をレテの前に出しそう言うと「レテ、がつん、する」と彼女も拳を出し、合わせた。







「ま、まだだ…」

致命傷に至らなかった、黒装束一人がフラフラと起き上がり、ボウガンでソフィアを背後から狙う。



「!?」


それに気がついたギルボアは素早く銃を取り出すと


「秘技・狼共鳴ウルヴズ・ハウリング!!!」

腰のホルスターから取り出しざまに銃口を下から上へえぐるようにあげながらトリガーを引く。射出された銃弾は地を低く駆け抜け、黒装束の足元でカーブし上昇して顎下から脳天を撃ち抜いた。

相手は体を仰け反らせそのまま頭から倒れて2度と起き上がることはなかった。



「あ、ありがとうございました」

とっさのことで反応ができなかった、ソフィアは一瞬の命のやり取りに呆然としながら彼に感謝の言葉を述べる。


「ちっ、まだ動ける奴がいやがったか。…任せておけ、お前さんに降りかかる火の粉は俺たちが払ってやる」

ギルボアは彼女の目を見て力強くそう宣言した。












門の近くへと向かうと、先ほどの大通りでの騒ぎのせいか配置人数が多く門の警備が前より厳しくなっていた。


「えーと、どうしましょう?」

前と同じ手は通用しません…よね?と苦笑し困ったようにソフィアはアイリスに助言を求める。


「ソフィア様、ここは私に任せてください。私の後についてきてくださいみなさん」

そういうとアイリスを先頭に門へと向かう。



「止まれ!何者だ!今このあたりは立ち入り禁止となっている!即刻立ち去られよ!でなくば捕縛する!」

兵の一人は声高にそう警告した。


アイリスは一歩前に出ると

「私の名は、アイリス・クラフィーネである。アイオラ国将軍である!所用でここを通らねばならぬゆえ門を開けよ!」

と響き渡る声でそう名乗りを上げた。


「アイリス将軍…!?第4軍を率いている!?」


「なぜこんなところへ!?」

ざわざわと兵たちが騒ぎ始めたが、初めに口を開いた兵が手でそのざわめきを制した。


「アイリス将軍、なぜこのような場所へ?知っての通りここは立ち入りが禁止されている飛空艇へとつながる唯一の門。ここを開けるという意味、貴方様なら十二分に理解しておられるはず。…反逆罪になりますぞ」

その兵は将軍と言えども開けることはできないという旨を伝える。



交渉を続けるアイリスとその兵士の様子を後ろで見ていたギルボアは、頭を掻きながらこの正攻法では時間がかかり、次の追っ手が来てしまい手詰まりになると感じていた。



「かぁー!こりゃラチがあかなそうだなぁおい」

彼はそう愚痴ると、レテに合図した。


「ギ、ギルボアさん…?」

ソフィアは不審な合図を出すギルボアに怪訝そうに尋ねる。


「まぁまぁ、任せとけって。大丈夫、はしないさ。ちーっとばかし眠ってもらうだけよ」

ギルボアはソフィアに向け手でひらひらと振りなんでもないとアピールする。


「んー、ようはなぐるだけなんだけどねー」

にこやかにノエルがソフィアに教える。


「え、なぐっ!?」


ドゴッ!!!


激しい音が響くとアイリスと話をしていた兵士は地面に倒れていた。


「あぁ、レテ…。私いま頑張っていましたのに…」

アイリスは落ち込みながらレテを見る。


「アイリス、遅い。こっちの方が早い。仕事早い人、ギルボア、好き」

レテはそのまま次の兵士のとこへ向かい、またもや1発激しい拳を撃つ。


「え、ほ、ほんとうですか!?仕事が早い人がお好きとギルボア様が!?…こうしてはいられません!」

アイリスは腰から鞘ごと抜くと素早く、兵士のそばまで風のように駆け抜け鳩尾へと鞘の先端をぶつけた。


「おごぁぁあ!」

兵士は叫び声にならない声をあげ、倒れこむ。


「あぁぁ、アイリスまで」

ソフィアはレテとアイリスのもはや側から見ても犯罪にしか見えぬ行為にオロオロとするが、ギルボアは大丈夫大丈夫と手をひらひらさせ彼女をなだめるだけで2人の凶行を見ていた。


ノエルはにこにこしながら先ほどの戦闘で倒れた黒装束たちの持ち物から使えそうなものを漁っている。








父の仲間たちは本当は恐ろしい人たちなのでは?と疑いはじめたソフィアであった。


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