第15話トリックスター

少女を連れギルボアはスラム街近くにある自宅へと向かう。


「警戒しながら、来たから思ったより時間がかかっちまったな」


薄暗い日の光も当たらない通りへと入り、くねくねと入り組んだ通りを進んで行く。通りには薄汚れた服を着て陰気臭そうにして座り込んでいる者がちらほら見かけることができる。髪を伸ばしボサボサ頭の者もおり、顔もよくわからない。2人が通るたびに彼らは2人を睨むように見つめまた力なくうなだれている。


「あの、ここは?」

ソフィアはギルボアから離れず歩き、軒先や路地裏に座り込んでいる者たちを目で追いながら尋ねる。不安からか腕を胸元へと持っていきギルボアの服の裾を掴んでいる。


「ここはな、スラム街ってんだ。お前さんの父さんの時代にもあるっちゃあったが、あいつはスラム街に住む貧困層をなくす努力をしていたな」

もう少しで着くから辛抱してくれ、とギルボアは言いながら彼女の父のことを思い出す。


「貧困層をなくす…」


「そうさ、あいつは『国のみんなが笑ってくれなくては、国が豊かとは呼べぬ』なんて言ってな。国主導の仕事を斡旋していってな雇用を生み出したりしてたよ」

ギルボアは少し高い声でウィルの声マネをしながら懐かしむように語る。


「だがな、13年前、王が代わってからは減少していたスラム街の範囲がまた拡大して行ったんだよ。国主導の事業をやめちまったからな。おかげでスラムと酒場は昼から大人気よ」


ギルボアの話を聞きながら、ソフィアは父のことを何も知らなかったことに気がついた。彼女の父が亡くなった時、彼女はまだ2歳であった。そのため、父がこの国を愛していたことは知っていたがその父がに国を愛していたのか彼女は全く知らなかった。


「あの、ギルボアさん!」


「あん?どした?」


「私に、もっとお父様のことを教えてください!」

ソフィアは目を輝かせお願いする。その輝かしさは、スラムにたむろしている者たちも顔を上げさせるほどであった。


「ふっ。あぁまた思い出したら話してやるよ」

ギルボアは彼女と昔話ができることに喜びを感じていた。







しばらくすると高めの建物に挟まれた一軒家が右手に現れた。

ここが俺ん家さ、とソフィアを招き入れ準備を整える。

革手袋に回転式拳銃リボルバー、革ブーツに金属の胸当てなどの軽防具を身に着け、ガドラン手記を入れたリュックを背負う。


「よし次はこっちだ」


そう言うと、2人はまた少し入り組んだとこまで歩き小さな店へと入る。

その店で、食料やランタンなどを購入しソフィアとギルボアは協力しながらリュックに入るだけ詰めていった。



店を出て門を目指し始めて少しすると、ナイフを持った男が2人、ギルボアたちの前に現れた。


「へへっ、おいお前ら、金目のもんを置いてきな」

巨漢の男がソフィアをイヤらしい目つきで舐め回すように見ながら、ナイフで脅してくる。


「やれやれ、今はお前たちみたいなクズに付き合ってる暇はないんだがな」

ギルボアは煩わしそうにそう言うと、ソフィアを後ろに下がらせながらリボルバーに手をゆっくり伸ばしていく。



と、その時












「あれあれあれー?もしかしてそこのおふたりさん、おこまりかなー?このトリックスター、ノエルさんがたすけてあげましょー!」


「ノエル、うるさい。…ノエル、殺す?」






建物の屋上から陽気な男と、黒髪の女が現れた。




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