第14話逃走ラプソディー


建物の周りに敵の足音がかすかに耳に届く。


1人

いや、

2人

いや、

5人


いや、10人程の音がギルボアには聞こえている。


「10人くらいか結構いやがる。ま、将軍が酒場に来たんじゃ怪しまれるわな」

ギルボアは落ち着きながらそう振り返る。


「申し訳ございません、ギルボア様。私がもっと上手くやれば…」

アイリスはギルボアに謝罪をする。


「いやぁ、いい。過ぎたことさ。ふっ、次は上手くやれよ」

ギルボアはそんなアイリスの肩に手をおき労いの言葉をかける。


「て、敵なんですよね!?ど、どうしましょう!」

ソフィアはこの状況で落ち着いている2人のことが信じられないと言った様子で、困惑し始めていた。


「ソフィア。…ソフィア、落ち着け。このくらいの危機簡単に乗り越えれなきゃあ宝玉なんて一生無理だぜ」

ギルボアは宝玉を引き合いにだし、ソフィアをなだめる。


「そ、そうですね…。…やはり、落ち着けません」

ソフィアは先ほどよりは大人しくなったが、それでもまだそわそわしている。

そんな彼女を横目にギルボアは、アイリスに指示を出していた。


「俺は一度家に戻って支度をせにゃならん。ソフィアを一緒に連れて裏から出る。スラム街側の飛空挺門のところで合流して、今日突入しよう。…ここを任せても大丈夫か?」


「お任せください!このアイリス、このような輩どもにやられるはずがございません。…1つ伺ってもよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「手紙を出した皆さんはどうしましょう?」

待つことはできませんし、とアイリスは悩む。


「あー、そうだな…。いや、どうせあいつらのことだ、王都に着いたら異変に気付いて勝手に動くだろうさ。行き先は伝えてるんだ、すぐに追いついてくるだろう」


ソフィアは彼のその言動と、アイリスとのやり取りからお互いを信頼してきっているのだなと感じた。


「おし、それじゃ始めようか」

ギルボアはそう言うと、ソフィアを連れて階段を下り、裏口の方へ回り込んでいく。

アイリスは部屋に残り、目を閉じ集中し始める。


「どうせ、裏口にも何人かはいるだろう。ソフィア、俺のそばを離れんじゃねーぞ…!」

ギルボアは裏口扉のドアノブを握りながらそう伝える。


「は、はい!」

ソフィアは小声で緊張感を持ちながら返事をした。


「いい返事だ…。いくぞ!」

扉を開けると黒装束の者達が4名待ち構えていた。


「いたぞぉぉぉお!裏口の方だぁぁぁあ!」

その内の1人がその場で大声を上げ表にいる彼らの仲間たちへと知らせる。


その声が建物の中にも響くと同時に、アイリスは部屋の建物正面側の窓を突き破り、2階からくるりと綺麗に一回転して着地する。


「ア、アイリス将軍!…やはり裏切り者だったか!」

表の黒装束達は突如空から現れたアイリスに驚きながらも武器を構え、襲いかかった。








「けっ、あの新国王が創った暗殺組織か」

気にくわねぇなぁとギルボアは愚痴を吐く。


「おら、かかってこいヒヨッコども、年季の違いを見せてやらぁ!」


「死に損ないのじじいが、ここでくたばれ!」

黒装束達が剣を取り出し一斉に襲いかかる。


「!?」


彼らはそれぞれの襲いかかるタイミングを微妙にずらしてギルボアへと向かって行ったため、とめどない連撃が彼を襲う。


がしかし、


「なぜだ、なぜ避けられる!?我らの隙のない攻撃だぞ!?」



「隙のない、ねぇ。こんなこたぁ、言いたくねぇがよ。狙いは悪くねぇが…」

「遅いな」

ギルボアは5歩も動かず全てを避けきり、そう呟いた。


「ふざけるな、舐めたこと言いやがって!」

黒装束の内の一人が激昂し、剣を振り上げ彼に向かって勢いよく振り下ろす。しかし、振り下ろしきる前にギルボアはその者の手首を掴み巧みにひっくり返し剣をもぎ取とった。その様子を見ていた残り者達も一斉に襲いかかるが、全てを躱されギルボアはカウンターとして、相手の首筋をことごとく剣で切り裂いていく。


「覚えとけよ、ヒヨッコども。戦場では冷静に動かねぇと死ぬんだよ。基本中の基本だったはずだがなぁ、最近の若いのは基本をおろそかにするからいかん」

ギルボアはそう言うと剣を置きソフィアを呼んだ。


倒れている黒装束たちを警戒しながらソフィアが彼の元へと近づくと、すぐさま異変に気がついた。

彼の額からは大粒の汗がいくつも浮かび上がっており、息も上がっていたのだ。


「だ、大丈夫ですか?ギルボアさん!」

ソフィアの汗を拭こうとハンカチを取り出すが、彼は手でそれを断った。


「歳、だからな…。頭んなかでは動けても、実際に動かすのはなかなか難しいんだこの歳になると…。もう長い時間戦うことはできん。はっ、さっきのも威勢のいい事は言ったが、…ギリギリだったな」

ギルボアは深呼吸を何度かし呼吸を整えながら、そう説明する。


「行こう、あとはアイリスに任せれば大丈夫だ」

彼はソフィアを連れその場を去っていった。









アイリスは、バックステップをして距離をとる。攻撃を仕掛けてきた数人の中からわずかに息を乱し飛び出している者を見つけ、こちらから仕掛けていく。素早く相手の剣戟をいなすと同時に首に剣を刺し、流れるように敵の中心へ割って入ると、動けぬようにするために間合いにいる複数の黒装束達を順々に手足、首などを斬っていく。


「裏切り者と言ったわね?…私ははじめからこの国に忠誠心はないわ…」


「なんだと…!?では、貴様はなんのために戦っているのだ!?」

黒装束の中の隊長格の男がそう問いかける。


「私は…ギルボア様とソフィア様。この命を賭けるに値する方達のために今剣を握っているのよ!!」

アイリスはそう言うと、風を斬るかのごとく駆け出していく。


「ばかめ!」

槍を持った黒装束の男は正面から向かってくるアイリス目掛け槍を突き出すが、彼女は突き出された槍を中心に優雅にくるりと回ると、槍兵を斬り捨てた。


「いい槍ね、使わせてもらいます」

そう言うと、槍を装束の集団後方で矢を番えていた弓兵へと投げた。

弓兵はその槍を矢で撃ち軌道をずらし、次の矢を番えると、既に彼の仲間たちは斬り捨てられており、眼前には純白の騎士が立っていた。




「では、さようなら」


声が聞こえたと同時に弓兵の視界が真っ暗となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る