第12話忘れ形見


馬車はある古い建物の前で止まった。


「ここに嬢ちゃんがいるのか?」

ギルボアは呟いた。


「こちらです」

アイリスは彼を先導しエントランスを抜け階段を登り奥の扉の前まで歩く。なるほど、ここは昔集合住宅か、宿屋として使われていたのだろう。廊下の突き当たりまで左右に扉がいくつもあり、扉には2桁の数字が交互に付けられていた。彼らは15番とかかれた扉の前で立ち止まる。



扉の前に到着すると、アイリスが扉をとんとんとん、とノックした。すると中から

「エンブレムの箱は?」

と問いかけがあり、それに対し彼女は

「山の奥底へ」と答えた。


かちゃりと鍵が開くと、アイリスは無言でギルボアに中へ入るよう促した。


「よう、昨日ぶりだな」

ギルボアは昨日と同じように接する事を心がけながら少女に話しかけた。


「!?」

「ギルボアさん…!?」

少女はベッドの上で毛布にくるまりながら小さな声でそう呟くと顔を下に向ける。


「どうした?元気ないじゃないの」

彼は近くにあった木の椅子にどっこいせと座りながら少女の調子をうかがう。


「怖かったか?スケルトンは」

優しい声色で少女に尋ねる。


少女は、無言で頭を下に向けながら、そこからさらに軽く一回だけ頭を下げ頷いてみせた。


「ははっ。そうだよなぁ。いきなりあんなもん出てきたらたまったもんじゃねーよな」

「おれも、もな昔、北東の方にある既に使われていない採掘場に行った事があるんだが。近隣のやつらが、そこに怪しい奴らがいるっていうんでな見に行ったんだよ。そしたらなんと、死んだ人間が採掘場内でうろうろしてやがってなぁ。後で知ったんだが、その昔ナムザ族がその北東地域の部族が中々従わねーからっていうんで不思議な技を使って墓地から死んだ奴らを動かして、死者をはずかしめてたりして無理やりその部族を従わせたらしくてな。今でもその死者たちは休む事なく動き続けてたってわけさ」


少女は顔を少し上げ彼が何を伝えたいのか測りかねていた。


「お、やっと顔をあげやがったな?…よく見せてくれ」

ギルボアは少女の顔を両手で優しく包むと少女の目をまじまじと見る。


「あぁ、間違いねぇ。その色だ…」



「その綺麗な赤い目を俺は1人知っている。…そいつは俺の親友で、義に厚く、皆に優しく、そして愛されていた。」













「でもそいつは殺された。…今でもはっきりと覚えている」








「あれは13年前」


「俺はあいつを…護れなかった…」









「アイオラ国、前国王であり無二の親友だった、ウィルを」


ギルボアは続ける。


「ウィルの子、ソフィア・オルネスよ。生きていてくれてありがとう…!」

そしてギルボアは少女、ソフィアをぎゅっと抱きしめ、感謝の言葉を述べた。彼の目からは涙が溢れ出す。


「よく、よく今まで、辛い生活を耐えてきたな。父を母を失い、よくここまで成長した…!よく、がんばったな…!」

抱きしめたままギルボアは彼女の今までの境遇をゆっくりと言葉にしていく。


「わ、わたしは…!」

その言葉に今まで抑えていた涙が一筋、すうっと綺麗に流れ落ちていくのを少女は感じると、せきを切ったかのように涙を流し始めた。

「わ、わたじは…!このぐに!このくにを、ぼんどうに守りだぐで…!おどうざまがずぎなごのぐにを…!」

ソフィアはむせ返りながら長年抱えてきた想いを吐露していく。それをギルボアは抱きしめながらただただ受け止める。


「あぁ、あぁ。辛かったな」












ひとしきり泣き終わると、ギルボアはソフィアを抱きしめるのをやめ向かいあう。


「泣くってのもたまにはいいもんだな。落ち着かせてくれる」

ギルボアはにかっとソフィアに笑いかけた。


「えぇ、そうですね。ギルボアさん先ほどはありがとうございました」

フードの時は気づかなかったが、綺麗な金髪を持っているソフィアは毛布から出て、ベッドの縁に姿勢正しく座りながら笑顔で礼を述べた。


「なぁソフィア1つ意地悪な質問をしてもいいか?…スケルトンは怖かったよなぁ?」


「……はい。…恐ろしかったです」

ソフィアは昨日の出来事を思い出したのか顔を青ざめながら答える。


「さっきの俺の話覚えているか?採掘場の話さ」


「は、はい、覚えています。…亡くなった方が動いているという話ですよね?」


「そうそうそれだ。ナムザ族ってのはいかれた連中みたいでな、何かと異形な者や危険な者を近くにおかなければ気が済まないらしい」

彼は続ける。

「だから、もしまだ宝玉を手に入れたいというならな、スケルトン以上に恐ろしい化け物みたいのに出くわさなけりゃならんかもしれんぞ。…それでも、行くか?」


ギルボア自身の答えは既に決まっていた。しかし、肝心の彼女の答えがまとまっていないのなら意味がまったくないのだ。







「それでも…」



ソフィアは考える。最悪の場合を。

それでも…



「お父様の愛したこの国を守れるなら…」








「それでも私は行く…!行きたい!お願いです、ギルボアさん!私に協力していただけませんか!」





「その言葉を待っていた!」



ギルボアはにやりと笑った。




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