第11話奇抜な男
「実は、本日はこちらからそのお願いをしに参りました」
とアイリスは返答した。
「ありがとう、感謝する」
それでは参りましょう、とアイリスは立ち上がり扉をあけ、戻らぬように手で抑えながらギルボアを先に店を出るよううながす。
その様子を見ていた客が
「けっ、酔っ払いじじいが、調子に乗りやがって」
と、ぼやき終わる前にアイリスが音もなく腰に差していた剣を素早く抜き、そのきっ先を客の喉元へと向けた。
「おい、貴様。いまギルボア様を侮辱したな?英雄に対しその口の聞きよう、万死に値する。その首、引き裂いてあげましょう」
アイリスはその客を見下すように見つめ、低い声でそう脅す。
「やめろ、アイリス」
ギルボアは抑揚もなく一言声に出しアイリスを
「し、しかし!この者は!」
アイリスは剣を下さず、顔だけギルボアの方を向き返答した。
「やめろと言ったはずだ、聞けないのか?」
先ほどよりトーンを落とし、彼女に問いかける。
「も、申し訳ございませんでした」
剣をさっとしまうと、アイリスはバツの悪そうな顔をしながらギルボアに謝罪した。
「さぁ、そろそろいこう」
ギルボアは扉を開け、先に外へと行き、それに続いてアイリスも外へと出る。
扉についている鈴がなったからか、店主は2人が出て行くのをグラスを磨きながら横目でしっかりと見ていた。
「なぁ、アイリス。俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、やりすぎだ」
「申し訳ございませんでした」
「だから昔から言ってるだろう?そう畏るなってよ。…それにお前達が色々している間におれはずっと酒飲んで酔っ払ってただけってのは合ってるからなぁ」
ギルボアは笑いながら歩きだす。彼は自分に対し敬われるのを極端に苦手に感じる傾向が昔からあった。理由は簡単で、むず痒くなるからだ。
「あれに乗ればいいのか?」
ギルボアは目の前にある馬車を顎で指し、アイリスに尋ねた。
店の外には馬車が止まっており、アイリスが言うにはそれに乗り少女のところまで行くらしい。馬車はしっかりとした客室が備え付けてあり、客人を向かい入れる用の馬車としても使用されていそうなものであった。
「この馬車に、乗っていきます」
アイリスは客室の扉をあけながらギルボアにそう知らせた。
「あいよ」
そう返事をしギルボアは客室へ入り込もうとするが、動きを止め考えんでしまった。
「どう、されましたか?」
また粗相をしてしまったのかとアイリスは伺うように尋ねる。
「いやぁ、すまんアイリス。1時間後でもいいか?」
彼はそう言うと、少し身だしなみを整えてくると言い残し立ち去った。
「ギルボア様!ここで待っていますからねーー!」
アイリスはすでにある程度の距離まで行ってしまったギルボアに聞こえるよう少し声をはり伝える。
ギルボアは手を頭上でひらひらと力なく振ると大通りの人ごみへと紛れていった。
1時間後。
「おお、待たせたな」
「ギル、ボア…様?」
アイリスは目を丸くし、つぶやく。彼女の目の前には伸ばしきった髪、ヒゲ面によれよれの服を着た男ではなく、代わりにグレイカラーの短髪に年相応ながらもキリッとした顔、そして極彩色豊かな服を着た男が立っていた。
「なんで、疑問系なんだよ」
ギルボアは彼女の反応に不服そうにする。
「いえ、その、急に変わられたので、その驚いたと言いますか。…とても似合っていますよ!」
しどろもどろになりながらアイリスは気持ちを伝える。
「はっはー、そうだろぉ、そうだろぉ!…だけどなぁ通りかかった奴らはみんな変な顔をしていくんだよなぁ。俺の顔になにかついてるか?」
アイリスから掛けられた似合っているという言葉に喜びながらも、馬車に戻るまでの周りの反応が彼は気にかかっていた。
「お、恐れ多くも申し上げますと…」
アイリスはそんな彼の疑問を解消すべく意を決し伝えようとする。
「お、なんだ?言ってくれ」
「その着られている服がその…」
「その…?」
「流行遅れ、ですので…」
「りゅ、流行遅れ!?…ぶあっははははは!!」
ギルボアは突如笑い出し、そんな彼をアイリスは大丈夫ですか、と心配する。
「あぁ、すまんな。…そうか、だからみんな変な目で見てたんだな。そりゃあ…何年前だ?確か…10年以上前だったかに買ったからなぁ。ちょっと前はこういうのが流行ってたんだよ。ほら、おまえにも買ってやったことがあったろう?赤いやつ。こうひらひらーってしてたやつさ」
ひとしきり笑った後、原因がわかりすっきりした様子でギルボアはアイリスに昔話をし、ジェスチャーで昔買ったという服の形を真似る。
「えぇ、持っていますよ今でも。…さぁ参りましょう!」
アイリスはその当時の買ってもらった時の嬉しさを思い出し笑顔でそう答えると、ギルボアを先に客室へのせ、彼女も次に乗り込み馬車を走らせるように指示した。
「アイリス、もう一つ良いか?」
「気軽になんでもおっしゃってください」
「途中で当たり障りのない服見繕ってくれねぇか?」
「承知致しました」
そして馬車は少女のもとへと向かう。
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