第8話私は…

時間を少し巻き戻そう。

酒場を出た後の少女の行方である。





「!?…いいえ、帰りません!…私は何が何でもこの国を、守りたいのです!ギルボアさんの助けがなくとも、私は…!!」

少女はそう叫ぶと酒場を飛び出し、大通りへとでる。




少女はギルボアがなぜ急に怒鳴り散らしたのか訳も分からなかったが、それは彼女のお願いを拒否する返答としては十分すぎるほどの威力を持っていた。


彼女はいきなり怒鳴られたことに対し、腹をたてるどころか驚いていた。

なぜなら彼女は産まれてこの歳まで怒鳴られたことがないからだ。気が動転し頭の中は真っ白のまま大通りを駆け抜ける。


しかし彼女の頭の中には『この国を守りたい』と先ほど彼女自身が言葉にした思いだけが頭の中に残っていた。


「私は…!私は!」

少女は小声で想いを溢れだしながら人混みをかいくぐる。

ふと、横をみるとカフェのテラス席越しに例の飛空挺が目に飛び込んできた。


「宝玉で、この国を…」

彼女は足を止め通りから飛空挺を見つめそう呟く。


彼がいないが大丈夫だろうか?アイリスと行くべきだろうか?

一瞬、彼女の頭のなかにそう浮かんできたが、その戸惑いをかき消すかのようにより強く『私がするんだ!』と心に念じた。




王都の外へ出るために、大通りを下り門へとたどり着く。


二人の門番たちが外の見張りをするために壁の上に通路に、もう二人が門のそばに立っている。


「どうしたのかな、君?迷子かい?」

近くにいた門番の一人が優しく声をかける。


少女は『どうすればこの門番たちに止められず自分が外へ出ることができるのか』考えるため、口を閉じ押し黙る。


「どうしたんだい?お腹でも痛めたかい?」

それともお腹すいたのかな?と門番は一言も話さない目の前の子どもになにか異常が起きているのではと考え、いろいろ話しかけ始める。


「違うんです。あの…」

少女は今から自分が嘘をつこうとしていることに罪悪感を感じながら口を動かした。

「そこの通りを左に曲がったところにある路地裏で、男たちが商人のおじさんに刃物を突きつけていて…!」

彼女は思いつく限り精一杯の演技をして事態の深刻さを門番に伝えた。


「なんだって!?そこを曲がったとこだね!?…ありがとう教えてくれて」

「よし、カイル!俺は現場に行ってそいつらが馬鹿なことをしないよう食い止めるから、お前は詰所へ行って治安部隊を呼んできてくれないか!?」


「あぁ、わかった!まかせておけ!」


少女の近くにいた門番とカイルと呼ばれた門番は素早く役割分担をすると、二人は走りさっていった。


そのため門の近くには誰もいない状態となった。


「ごめんなさい。お仕事の邪魔をしてしまって…」

少女はそう呟きながら、門へと近づく。

門は幅の広い門とその横に備え付けてある人一人が通れるサイズの扉、2つの出口が設置されていた。

少女はそのうちの小さなほうへと向かい、ローブのポケットへと手を入れ鍵束を取り出す。


鍵束の中からその扉を閉じている鍵穴と同じ鍵を見つけ、差し込み回した。


かちゃりと小気味の良い音が聞こえる。


そしてかんぬきを外し扉をあけ旧ナムザ帝国領へと足を踏み入れた。







「ここが、ナムザ帝国だった場所…」

少女は辺りを見渡し、その空気を、風を、匂いを感じようとする。がしかしそんな観光目的ではないとすぐに気を引き締め飛空挺の方を向く。


墜落の際の衝撃のせいか、扉の外は地肌がめくれ上がり建造物の残骸などで道はない。

ゴロゴロとした岩ばかりのようと少女思った。


一つ一つ足場を確認しながら進み始めると、背後から声が聞こえる。


「おい!君何しているんだ!戻りなさい!」


「なんで、あの子は外に出てるんだ!?門は閉じていただろう!?」


壁上通路の見張りが大声で少女に戻るよう促す。

しかしながら少女は止まることなく歩を進め、比較的歩き易い瓦礫と瓦礫のあいだにある通路のようなところ見つけそこを早歩きで行く。


『ごめんなさい、でも私行かなくてはいけないのです』と少女は心で彼らに返答した。


しばらくすると少しひらけた場所にでた。

と同時に前方から視線のようなものを複数感じる。


「だ、だれかそこにいるのですか…!?」

少女は姿の見えぬその視線に怖がりながら辺りに問いかける。


彼女は始めから。このような瓦礫のなかに普通は人などいないと。


ガドラン手記の通りならここにいるものは…


「スケルトン…」


彼女がそう呟くと同時にカチャカチャと音を立てながら短剣を持ち、眼孔の部分が赤く怪しく光る骸骨が左右から2体ずつ現れた。


「ひっ」

彼女は小さく悲鳴をもらすと、一歩後ろに下がった。


骸骨は品定めするように赤い光を不気味に上下左右に揺らし、そして一歩ずつ少女へと近づきはじめる。


「こ、こないでください…!」

少女は小声で拒絶するが、伝わるはずもなくスケルトンたちは左右から挟み込むように少女との距離を詰めあと数歩まで迫っていた。


「あ、あ、あ、あぁぁぁ」

少女はもうじきくるであろう死を受け入れることができず、頭の中が混乱し涙を流し小さく叫び声をあげることしかできない。

スケルトンは彼女の目の前まで歩き短剣を振りかぶる。


パァン


破裂音とともにスケルトンの頭蓋骨は吹き飛んでいた。


「え…?」

少女は突然の出来事に素っ頓狂な声をあげる。それもそのはず、短剣を振り上げたまま、頭蓋骨が粉々になり動きを停止したからだ。

残りのスケルトンたちも辺りを見渡すが異変はない。するとまた一体のスケルトンの頭蓋骨が破裂し、続けざまに残りのスケルトンたちも破裂していく。


「ど、どうなっているのでしょう…!?」


少女はこの数分間で起きた異形の者との接触、死の恐怖そして唐突に破裂したスケルトンたち、という未知の経験だらけの数分間に頭がついていくことができない。






少女は遠くより聞こえる騎馬警備隊の声に気がつくまでしばらく呆然としていた。



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