第7話彼の道は
あの少女が言っていた『本物のガドラン手記』。
「あの眼は疑いようもない。嘘は言っちゃいねぇ」
ギルボアの長年の経験からそう確信していた。しかしなぜこの本を彼女は自分に託したのかギルボアには謎だった。
「読んでみればわかるのか…?」
ギルボアは運ばれてきた酒瓶を受け取ると一口ぐいっと飲み、表紙をめくった。
そこには彼が昔読んだ内容と同じガドランが王から最期の命令をもらった日のことが記されている。もちろん彼女の言っていた宝玉のことも。
「なんだよ、同じじゃねーか。…いや待てよ、そうだこの話の最後は俺が覚えている限り、ガドランは宝玉を持ち帰って末代まで讃えられてハッピーエンドで終わったんだよな確か」
古いため破けぬよう慎重にページをめくり、最後に書かれているページを開く。
「どれどれ…」
『今、ヤツから逃れている。私はもうここまでかもしれぬ。それゆえ最後にここに書き記したい。思えば飽き性の私がこの日記をこつこつと続けてこれたのは奇跡に近いことであったな。いやいまはその話はおいておこう。…不覚だった、私の刃が通らぬとは…奴に勝てる算段が全くつかぬ。なんとか残り5名の隊員はこの飛空挺から脱出させねば。多くの仲間を失い王からの命も満足に果たせぬとは私はなんと愚かな存在か。願わくばもう一度奇跡よ起きてくれ、あの怪物に打ち勝つ力を私に。 まずい、やつがきた』
「どういうこった…?これで終わりってか?俺の知ってるガドラン手記とは全く違うな…」
ギルボアは唾をのみこみ黙りこむ。
「これが本当のガドラン手記ってこたぁ、こりゃ、ハッピーエンドとはほど遠くないか?この感じじゃあガドランは…。ん?」
ギルボアが最後のページと思っていた裏にまだ文字があることに気がつく。
『ガドラン宝玉捜索隊第2部隊隊員ソルテが書き記す。 ガドラン隊長は我らを守るために一人あの忌々しい飛空挺に残り化け物に立ち向かった。…我らこれから隊長を救出するため再度飛空挺への突入を試みる。』
「なんてこった…」
おあるように酒を飲み、落ち着きを取り戻そうとするが飲めば飲むほど冷静さを欠いているような気さえする。
「いや、酒のせいじゃねぇ…と思うぞ」
しばらくして今日はもう家に帰ろうと思い立ちギルボアはお代をを払い大通りに出る。時刻は夕暮れ時で、陽が傾き日差しが大通りを照らし出している。
ギルボアは眩しさから眼を細めながら、大通りを下っていく。下った先には先ほど少女との話の際にでてきた飛空挺が遥か昔に墜落し地面へと突き刺さっている様子が遠くに見える。彼の今いる位置からでも大きく見えるその飛空挺、間近で見るとさらにでかいであろうことが容易に想像することができる。
「はっ、自分で自分とこの国潰すたぁこれ以上の馬鹿なことはねぇわな。…ま、この国も同じか…」
彼は夕日により淡いオレンジ色で照らされている飛空挺を見つめながらぼそっとつぶやいた。
アイオラ国、その王都はナムザ帝国の跡地近くに作られている。そのため旧ナムザ帝国領地とアイオラ国の境目には壁と門が設けられ、ナムザ帝国の子孫である者たちは立ち入れぬようにされている。
いま、ギルボアが歩いている大通りの先にはその門があるのだが、なにやら騒がしい。
彼が近づくと幾人かの門番が壁の上、見張りのための通路より外にむけて叫んでいるのが確認できた。
「おい、君!早く戻りなさい!危険だから!」
「まずいぞ…!スケルトンが出始めた!はやく!戻るんだ!」
そのような不穏な声が聞こえ、ギルボアは眉をひそめる。
「なにしてんだぁ、あいつら」
ギルボアは上の通路へとつながる階段をゆっくりと登り門番たちに近づく。
「なーに遊んでんだおまえら」
ギルボアは酔いからか、彼らの肩に手を置き寄りかかるようにして気さくに門番に話しかける。
「な、なんだ君は!?うっ…。さけくさっ」
「スラム街から出てきたのか?飲みすぎだぞあんた」
「おいおい、散々な言い方だなぁおい。で、どうしたんだよ」
ギルボアは彼らの言動を気にも留めず、聞き返す。
「あ、あぁ。あそこの子が我々の制止も聞かずに飛び出してしまって…。近くの騎馬警備隊には連絡を入れたのだが」
「その部隊が到着するより早く、スケルトンの群れがあの子に襲いかかろうとしているんだ…、距離がありすぎてもう手遅れだ…」
彼らは顔をくもらせ、その子どもを助けることができない悔しさを吐き出す。
「おいおい、何言ってんだ?」
ギルボアは呆れながらそう言った。
「なにって…」
「そのライフルは飾りかって聞いてんだよ若造」
ギルボアは門番の一人からライフル銃をひったくり、かまえた。
「お、おいじーさんやめろ!ここからどれだけ離れてると思ってる。当たりっこないんだ」
「黙って見ることもできねーのか?これだから最近のガキは…。いいか、お前たちの『常識』で俺を測るんじゃねぇ。この世にはお前たちの常識を超えることはよく起きるんだよ。」
「よぉ、お前ら…」
彼は照準をよく定め、トリガーに指をかける。
「じじいをなめるなよ?」
そしてトリガーを引いた。
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