第6話そして彼は拾い上げる


「ま、待ってくれ、さっきから話が見えねぇ。頭ん中を整理させてくれねぇか」


ギルボアは数十秒の後そう絞り出した。まず時間だ、時間が必要なのだ、と。


「説明下手で申し訳ございません。しかし、ギルボアさんにはしっかりと理解して欲しいのです。疑問に思うことはなんでもお聞きください」


少女は申し訳なさそうな口調でそういうとギルボアの目を再び見つめた。『私は隠し事は一切しません』とでもいうかのように。


「ぐぅ…。そうだな、まず聞きてぇのは…。…宝形でどうやって今の状況を打破するつもりなんだ…?」

ギルボアは色々聞きたいことがあったが努めて冷静に一つずつ疑問を解消することにした。


「そうですね、それは…」

「ガドラン手記のはじめ、アイオラ歴52年 5の月 木の日 晴天。ガドランが日記をつけ始めた日のページのところです。そこには王がガドランに『ナムザ族が作ったとされる宝玉』と『その宝玉は強力な武器』であることを彼に伝えたと記されています」


「あぁ、確かにそんなことを書いていたな。でも武器じゃないか、この国が必要としているのは資源だろ」

ギルボアはそこで思案する。


強力な武器


ナムザ族


この大陸の現状


脳内を再び何か電流のような衝撃が走った気がした。



「いやまて、おいおいおい。そんなことが本当に可能なのか!?」

そして少女の意図に気がついた。


「それは正直なところわかりません。誰も試したことがないので…。しかし、誰もしたことがないからこそ試してみる価値があると思います…!」


「嬢ちゃんあんた…。ナムザ族が作ったっていう宝玉という名のその武器を周囲の海にあるナムザ族が不思議な技で創り出した濃霧にぶつけて…、濃霧を消し飛ばす気か!!」

ギルボアは目を輝かせ、年甲斐もなく興奮し立ち上がり大声をあげる。



彼の突然の叫びに、店内はシンと静まり返る。



「…伝承のとおりなら、どちらもナムザ族により生み出されたもの。それならナムザのもの同士ぶつければ何かがおこるはず。…濃霧さえ消えれば、外へ助けも呼べましょう」

少女は顔を上げ立ち上がったギルボアを見つめる。

彼からは少女の顔がしっかりと確認できた。


「嬢ちゃん…まさか…!?なんてことだ……」

ギルボアは少女の顔を見ると驚愕し、

「…いいか一度しか言わんぞ。小娘、よく聞け!お前さんのやろうとしていることは打開策じゃない!なんの確証もない、それはただの無謀と言うんだ!わかったらこの本を持って今すぐアイリスの元へ帰れ!そして2度とここへは来るな!」

先ほどとは打って変わって低い声でギルボアは声を荒げ赤い本を少女へ押し付けながら怒鳴った。


「!?…いいえ、帰りません!…私は何が何でもこの国を、守りたいのです!ギルボアさんの助けがなくとも、私は…!!」

少女はそういうと店の外へと飛び出していき大通りへと出て行った。



「おい、馬鹿ギルボア追いかけなくていいのか〜」

「おいおい笑かすなよ、あんな年寄りもう走れねーよ」

店内にいた客が口々にギルボアを嘲笑する。


「ふん…。いいんだよ、あれで…。マスターもう一本くれ」


ギルボアは客のからかいを無視しぼやくと店主に酒を注文する。

久しぶりに大声を出したせいかふぅとどっとくる疲れを受け止めながらうなだれると、床に赤い本が落ちていた。





「『本物』のガドラン手記か…」


彼は手に取りそう呟いた。

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