第5話少女の目は真っすぐに

「宝玉だぁ?」


ギルボアは驚きで酒を吹き出すのを抑えながら、尋ねる。


「宝玉ってあれか?あのガドラン手記にでてくる」


「その宝玉のことです。」


少女は目をそらさずギルボアを見つめる。その様子からギルボアには内容がどうであれ彼女が適当に喋っているようには見えなかった。


「おまえさん、もしかして宝玉を持ってんのか?」


「いいえ、『今』はもっていません」


「面倒な言い方はよせ」


ギルボアは酒瓶を飲み干しテーブルに置いた。


「ごめんなさい少し試す言い方をしてしまいました。そうですね…私は宝玉は飛空挺の中にあると思います。それをギルボアさん、あなたと私で一緒にとりに行ってほしいのです」


その言葉を聞きギルボアは豪快に笑う。


「いやぁ悪いな嬢ちゃん。バカにするつもりはなかったんだが話がぶっ飛びすぎててよ、思わず笑っちまったよ」


少女は優しく微笑むと


「気にしていません。それが普通の反応ですから」


と答えた。







ひとしきり笑った後、ギルボアは少女に疑問をなげかける。


「それで?きかせてくれ。なぜ宝玉なんだ?手記では、はじめにチョロっとしか触れてないはずだ。俺の記憶違いでなけりゃ、考古学者たちの間でもあの『宝玉』という単語は何か別のものの隠語だという見方で一致していたはずだが?」


少女はフードの奥で驚いた表情を浮かべた。ギルボアにはその表情はよく見えなかったが彼女の息を飲む気配で驚いていると感じとることができた。


「ごめんなさい、でも驚きました。ギルボアさんはガドラン手記についてお詳しいのですね」


「いやぁ、若い時にな、その、よく読んでたんだよ。あの手記にはロマンが詰まってたからなぁ。ガキの頃なんかその辺のガラクタを見つけて『これが、宝玉だ!』なんて言ってよ」

あぁなんだそんなことか、とギルボアははぁと息を吐くと同時に若かりし頃の彼自身を思い出し、照れくさいような懐かしいようなそんな気になった。


「ふふっ、さぞかし元気な子どもだったのでしょうね」

その照れを見て少女は手を口元へと持っていき、上品に笑う。


「あぁ、そうだなぁ。自分でいうのもなんだが、俺ぁ、わんぱくガキ大将でよ。悪いことしては、大人に叱られてばっかだったよ。…ガドラン手記も本当に好きでなぁ、親父にわかんねぇ字を読んでもらってよ。意味をお袋に訪ねるのさ。それで毎日ちょっとずつ読んでいってなぁ、自分はガドランみたいになるんだって意気込んでなぁ…。……ん?んん?ガドラン手記の最後って確か宝玉持ち帰っていたよな?」


少女はギルボアの疑問を聞くと、白いローブの内側へ手を入れ、表紙がボロボロの赤い本を取り出しギルボアの目の前に静かに置いた。


「こりゃ、ずいぶん古そうな本だが、いったい」


「これは、ガドラン手記の原本。ガドラン・エル・トリータが実際に書き記した本物の『ガドラン手記』です」


ギルボアは心臓が止まった。


いや心臓が止まったように錯覚しただけなのだが彼にはそれほどの衝撃が体中に電撃のように駆け巡り脳へと電撃は暴れながらもおさまっていく。



少女



本物のガドラン手記



宝玉


国家滅亡


彼の脳ではこの単語たちが意味を持たずにぐるぐると回っていた。


 

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