第5話
その人間はとても中性的な人で
『折絵 悠(おりえ ゆう)』さんというらしい。
この時は知らなかったが男の人だった。
「僕は小説を書いていてね、それなりに売れているんだよ」
そう話してくれた。
家まで招いてくれて、お茶を出してくれたしケガも処置してくれた。
それもどこか胡散臭い笑顔で。
「前はね、画家をしていたんだけどね・・
途中であきらめちゃったんだ」
窓の外を見つめて
悠さんは、「かいくん・・」と愛おし気に声を漏らした。
その言葉は降り出した雨に消え入りそうなほど小さなものだった。
「あのね、維くんっていったよね」
俺をまっすぐ見据えたその姿は、先ほどまでの弱弱しさなんて見えなくて
「もし僕の作品を見つけたら教えてほしい。
処分したいんだ」
処分したい、そう言った。
童顔に似合った男にしては高い声だって低くして。
「俺は、まだ幼いです。
貴方の作品も知りません、ですがもし俺のすきな作品が貴方の作品だとしたら
その願いは叶えさせません」
俺にだって叶えたいことの一つ二つはあるし、だてに親の言いなりじゃない。
我儘いうときは本気の我儘でいく。
幼い俺が誘われた折絵悠の世界 なきゃ @nakya_deseo
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