第14話 by Aria.I
「前半演習、無事に勝てたわね。友里」
「当たり前だろう。我々は大庭隊だ」
演習用武器を用意しながら、ユリさんとアリサさんが言った。
ユリさんは、自分が勝つことに何の疑問も抱いていないらしい、と前にアリサさんが言っていたけど、こう聞くと改めてほんとなんだなぁと思う。女として、強く美しく生きてきたユリさんとアリサさんの会話だからこそ、ボクたちの感じるものは大きい。
イタリア出身のボクがどうして日本の軍隊に所属しているかというと、イタリアで日本特別陸軍大庭隊――つまり、ユリさんとアリサさんの噂を聞いたからなんだ。ボクが噂を聞いた当時、現在の大庭隊はユリさんとアリサさんの二人で、「隊」と呼べるようなものではなかった。それでも二人の噂はイタリアにまで流れてきたのだから、世間の注目や好奇の目はかなりあったのだろう。遠い存在だった二人と一緒の軍隊で戦えるというのは、ボクのモチベーションを上げる簡単な方法だ。
「さて、次は妹尾隊との直接の殴り合いになる。しかも夜戦だ」
「とは言っても、多少ライトを使うことは禁止されていないわ。それは相手も同じこと。だから、ライトの動きは捉えるようにしてほしいの」
「お互い演習用の武器を持っているとはいえ、実戦さながらの戦闘になるだろう。前半以上に気を引き締めていくこと!」
「「はい!」」
「目標はもちろん相手部隊の全滅。好きなだけ暴れてこい!」
「「「はい!!」」」
こうやって戦闘前ミーティングをしているだけで、頑張れるんだ。
『こちら五十嵐鈴です。両方の隊員が持ち場につきました。ルールを一度確認しておきます』
最初の頃よりリラックスしているスズの声が聞こえた。全体に向けて放送をしているため、よく聞くと音はエコーしている。
『まず、危険ですので真剣や拳銃などは使用しないでください。使用が認められた場合は演習中止、処分対象となりますので、お気を付けください。戦闘時間は三十分ですが、その前に決着がついた場合はその時点で演習終了です。戦線離脱条件は、攻撃が当たった場所が致命傷だった場合。わたしたちでは判断しかねるので、看護師にチェックをしてもらいます』
久々に演習に出るもんだから、ルールはしっかり聞いておかないと。看護師というのは、看護師長のナミさんとその後輩のシホちゃんのことだろう。
致命傷の攻撃というのは、主に三か所とされている。頭、首、心臓だ。木刀やペイント弾でその三か所のどこかにヒットさせれば、相手は戦線離脱する。でも相手もどこが致命傷かわかっているからこそ、その三か所はなかなか狙わせてくれない。
ユリさんが木刀を鞘に仕舞った。同じくミソラが木刀を背中の鞘に仕舞う。ユリさんが怖いのは、木刀の片面だけを使って敵を追い詰めるところ。いつも使ってる武器が刀だから、自然とそういう振り方になってしまうらしい。ミソラは剣を使うから、両面を使って攻撃する。二人とも、自分の木刀は愛用の武器の長さに調節しているらしい。
ボクもボウガンの矢を吸盤付きのものに変えていると、隣のアリサさんが銃弾をペイント弾に変えているところだった。丁寧に二丁ともペイント弾にしている。アリサさんの銃弾は怖いくらいに真っすぐだけど、それはペイント弾でも同じ。同じ飛び道具を使う者として、見習いたいところだ。
『では、所定位置への移動をお願いします』
マイハさんの声に、複数の足音が聞こえた。妹尾隊も移動を開始しているのがわかる。
今回の布陣は、前衛にユリさん、ミソラを置き、後衛にボクとアリサさんを置く、一番バランスがいい布陣だ。戦闘前でライトをつけていないこともあって、今は全然見えてないけど、ボクら大庭隊と相手の妹尾隊は、実はお互い数メートルの場所にいるらしい。マイハさんやスズにはモニター越しに見えているのだろう。
『所定位置確認。……今から三十分、開始します』
マイハさんから開戦の合図が出された。
まず動いたのは妹尾隊だった。
妹尾隊の隊員一人がサーチライトを持ってこちらに走ってくる。サーチライトがユリさんを捉えた。
「野口実空! いけるな!?」
「もちろん! 任せな!」
ユリさんは自分が囮になることを決めたらしい。前衛を二手に分けて、ミソラが陽動を仕掛けるのだろう。だから、次にボクに来る指示もわかっている。そして、それになんと答えるべきかも。
「板垣有愛!」
「待ってたよ! ここはボクに任せて!」
今度はユリさんが妹尾隊に走っていく。妹尾隊の視線は、きっとユリさんに向かっていることだろう。サーチライトで捉えられたユリさんが相手方に突っ込んでいくなんて、普通は自殺行為なんだけど、それはこちらにも言える台詞だ。サーチライトの光を追っていけば、妹尾隊の隊員がどこにいるのか、逆に位置がわかってしまう。サーチライトは、まさに諸刃の刃。
攻撃を引き付けるのはユリさん、陽動を仕掛けるのはミソラ。でも、陽動を仕掛けるのは一人だけだなんて誰が決めたのさ?
姿勢を低くしたミソラが、ユリさんの後を走って着いていく。ボクもヴェッテで大きく回り込んで、妹尾隊の真後ろを探す。
「!? 馬!?」
どうやら思った以上に妹尾隊隊員の近くを移動していたらしい。ヴェッテの足音を聞かれた……!
「前衛は向こうの隊長、後衛は馬を狙え!」
妹尾少尉が慌てることなく指示を出す。考えてみればアリサさんより少し上くらいの年齢で、アリサさんと同じ階級なのだから、妹尾少尉だって切れ者のはずだ。小さく舌打ちすると、ボクは素早くボウガンを構えた。もしボクの姿を捉えられたにしても、ボウガンを構えているだけで制止力になる。
ヴェッテの足音に混じって、後衛の足音が聞こえてくる。人間の足より馬の足の方が絶対に早い。妹尾隊の後衛は、まずヴェッテに追いつくところから苦労していた。大庭隊ではユリさんとミソラが武器持ってヴェッテを追いかけてくるから何も思わなかったけど、これ、本当はめちゃくちゃしんどいことなんだね……。
でも、向こうの後衛も黙っていなかった。後衛の拳銃が月明かりに一瞬だけ照らされ、銃口がこちらを向いたのがわかった。ヴェッテが急に止まれないことと動線を予想して、銃口は少し右向きで構えられている。演習では、ヴェッテも致命傷を受けたらヴェッテのみが戦線離脱扱いである。銃弾が撃たれる前に、こちらから一発、撃っておくのも作戦のうちだろう。
「まずは一発!」
ボクに交戦の意思があることを、矢を撃つことで示す。矢の向かう先は――もう一人の後衛!
こっちはボクとヴェッテの二人、なら後衛二人を引き付けるのはボクの仕事だ。陽動じゃなくて、囮になってしまったけど、結果オーライということで見逃してもらおう。
後衛二人がボクを見た。月明かりがぼんやりとボクらを照らす。
じゃあ、始めようか。
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