第11話 by Aria.I

道中の敵を足止め(仕留めた敵もいるけど、別に問題ないだろう)し、ボクは前衛組の元へ急いだ。数百メートル先ならボクの優秀な馬――VEDETTE《ヴェデッテ》、通称ヴェッテがすぐに追いついてくれるけど、何があるかわからないから素早く動いておくに越したことはない。

「ユリさん、ミソラ!」

 二人に追いつき声をかけると、ミソラは驚いたように、ユリさんは納得したように振り返った。

「有愛!? こっちに来ていいのか!?」

「アリサさんの指示で来てるんだ、問題ないよ」

「佐々倉有砂なら、板垣有愛をこっちに寄越してくると思ったが、やはりか。野口美空、どうして佐々倉有砂は板垣有愛を後衛に残さなかったと思う?」

「え、えーと……」

 ミソラが見てわかるくらいにうろたえ始めた。ミソラは士官学校時代も、状況把握が大の苦手だった。そういう意味では、スズが狙撃ではなく後方支援にいてくれたほうが、この子に指示を出しやすくなるかもしれない。

「有砂姉が、一人で倒せるから……?」

「簡単に言うとそういうことだな」

 ユリさんの肯定に、ミソラが安心したように息を吐いた。軍人たるもの、簡単に表情に出るのはどうかと思っちゃうんだけど。

「佐々倉有砂のことだ、大方自分一人で暴れたかったんだろうな。ここに来る頃には、きっと」

「きっと?」

 珍しく歯切れが悪いユリさんの顔を覗きこんで尋ねた。でも、ユリさんはふと前衛指揮官の顔になった。

「ああいや、何でもない。失礼、では我々も戦果稼ぎといこう」

「「はい!」」



 他の人にできない何かができるというのは、その分の責任や負担がこっちにくるということで。乗馬ができるボクの一番の仕事は、索敵。

 マイハさんが索敵機で索敵をするけど、マイハさんの手で及ばなかった索敵はボクの仕事だ。ということで、ボクはミソラとユリさんより早く、戦場の中心部に向かった。

 後ろから二人が走ってきている音が聞こえる。さすがに乗馬しているボクには追い付かないとは言え、二人とも自分の武器を持っているにも関わらず、びっくりするくらい早い。特にミソラ、君の武器は八十センチほどの剣だと記憶しているんだけど。

 片手で手綱を持ち、もう片方はボウガンを持つ。日本ではボウガンは武器として使うことを禁止している。でも、ボクはイタリア育ちでボウガンを武器として使ってきた。だから唯一、ボクはボウガンを使うことを許されている。

 そもそもボクがボウガンを使うようになったのは、今から十三年前の話。祖国イタリアで、未確認生物が街中に現れたんだ。日本でいう小学一年生の年齢のボク、足が震えて動けなかった。そんなボクを助けてくれたのは、海外研修で偶然イタリアに来ていた日本特別陸軍の――女性。

『大丈夫ですか? ……よく頑張りました。頑張っている子のことは絶対誰かが見ていてくれる。ほら、こうして助けが来ますから』

 その女性が見渡した先には、特別陸軍が未確認生物を倒したり、民間人を避難させているところだった。時が経ち、命の恩人とも言うべき日本特別陸軍に恩返しをするため、入隊した。そのときの女性のことは、実ははっきり覚えていない。未確認生物が現れた驚き、もしかしたら命を失っていたかもしれないという恐怖が先行してしまって、女性の記憶が薄れてしまった。そのときの言葉は覚えているから、いつか誰かがピンチ! っていう場面に遭遇したら、そのときの言葉を言うつもりだ。

 そんなことを考えているうち、中心部に着いた。中には未確認生物そっくりな機械が動いている。

 未確認生物に襲われた十三年前の記憶。今でも怖くて手が震える。ボウガンの狙いが上手く定まらないときだってある。でも。

「あのときのボクとは違うんだ!」

 手綱を引く。ヴェッテがボクの気持ちに応えるように、大きく嘶いてその足を動かした。

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