第10話 by Suzu.I

「今からするのは戦果確認ね」

 万意葉さんが走りながら説明をしてくださいます。普段から戦場に出て戦果確認をしている万意葉さんは、走りながらわたしに指示を飛ばすことくらい容易にできるようです。

「実弾が飛び交ってるけど、こっちには絶対撃ってこないからね。でも、流れ弾が来る可能性がある。危ないと思ったら私の傍から離れてくれていい」

「はい」

 通信機だけは持って出てきたので、もし万意葉さんとはぐれてしまっても、連絡をつけることは可能です。万意葉さんだけでなく、中尉と少尉にもわたしの声が届くので、お二人とも助けてくださるでしょう。

「ナイフは護身用ね。だけど戦闘で使うというよりもね」

 生い茂った木々を前に、足止めをくらってしまうわたしたち。万意葉さんがベルトからナイフを抜きます。

「こういう用途に使う」

 慣れた手つきで、万意葉さんが邪魔な木々を切り落としました。

「な、なるほど……」

 わたしも真似をして、木々を切り落としていきます。なかなかうまくいかないわたしを見て、万意葉さんが小さく笑いました。

「サバイバルっぽいでしょ? 友里さんに頼んだら色々教えてくれる」

「どういう生活をしたら、こんなことを教えられるぐらいに知識がつくんですか……」

「わからないけど、友里さんは士官学校時代、同期の中では刃物系を使わせたら右に出るものはいない、って言われてたらしいのね」

「男性を差し置いて、ってことですよね。すごいですね、中尉……。いや、でも万意葉さんもすごいですよ」

「なんで?」

 万意葉さんが一瞬、こちらをちらりと見ました。本当に不思議そうな顔の万意葉さんに、わたしは言葉を投げかけます。

「研究も索敵も、こうして戦場に出ることもできるじゃないですか」

「やる人がいなかったからね。今成人してる大庭隊の人って、入隊したときは、自分の仕事は自分しかできないって状態だったから、嫌でも全部できる。私の場合は一応研究科の花澄さんがいらっしゃったから、その代わり索敵とか動く仕事をやってるって感じね」

 今成人されている大庭隊隊員というと、中尉、少尉、准尉、看護師長、花澄さん、万意葉さんの六名です。わたしはまだ十九ですから、この中には入りません。

 確かに戦闘員と後方支援部、見事に三人づつに分かれています。自分の仕事は自分しかできない、というのはどれほどのプレッシャーなのか想像して、わたしは思わず肩を震わせました。特に万意葉さんの仕事量は、かなり多かったはずです。

「万意葉さんって何ができないんですか?」

 つい、口から出た言葉がこれでした。

「うーん……」

 こんな質問でも、万意葉さんは一生懸命に向き合ってくださいました。本来、索敵の最中にここまで無駄話はしないと思いますが、もしかすると初陣であるわたしの緊張をほぐしてくださっているのかもしれません。そう思うと、ますます万意葉さんの答えを聞きたくなりました。

「『なくなったもの』を元に戻すこと、かな」

 一瞬だけ強く吹いた風が葉っぱを揺らしました。同時に万意葉さんの髪をも揺らし、表情を隠してしまいます。

 万意葉さんにしては不思議な物言いに、わたしは上手く返事をすることができませんでした。

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