第3話 by Shiho.M
さて、ここで少し大庭隊の話をしておこう。
女性だけで構成されたこの大庭隊、当初は当時二十歳の大庭中尉と、当時二十二歳の佐々倉少尉だけだったらしい。階級は大庭中尉の方が上だが、年齢は佐々倉少尉の方が二歳上だ。だからかお互い敬語を使っていない。それに加えて、この二人は戦闘上のコンビも組んでいる。大庭中尉が前衛で刀を振るい、佐々倉少尉が後ろから援護射撃を行うのが、この二人の戦い方らしい。
現在は大庭隊ができて五年。大庭中尉は二十五歳で小隊を率いている。
コンコンコン、とはっきりとしたノック三回。これは間違いなく、佐々倉少尉である。
「友里、万意葉から呼ばれたから来たわ。入っていいかしら?」
「どーぞ」
扉が開き、佐々倉少尉が入ってきた。抜群のスタイルの良さ、そして一目を引く黒の長い髪。モデルとして雑誌の表紙を飾っていても、なんら違和感のない方だ。
「呼んでる、としか聞いてないのだけれど、何の用事?」
「突然だけどありちゃん、まだ狙撃できる?」
ぐい、と大庭中尉が机から身を乗り出した。佐々倉少尉は驚くことなく淡々と返事を返す。
「ええ、問題ないと思うわ。何かあったの?」
「うん、さっきまいちゃんと話してて、狙撃できる人がほしいなって」
「あたしができたところで、指揮は誰がするのよ」
「それは心配ないよー。それより先に、ありちゃんの狙撃の腕を見せてもらわないとね!」
言いながら、大庭中尉がわたしと菜美さんの方を見た。……これは、何かしないといけないのだろうか。
「んー……志保ちゃん!」
「は、はい!」
突然大庭中尉に名前を呼ばれ、わたしは思わず肩を揺らした。余計なことをしてしまったのだろうか。
「友里ちゃんが呼んだだけでそんなに驚かないでよー」
自分の隊のトップに、突然呼ばれて驚かない人はさすがにいないと思う。そういや大庭中尉、一人称は「友里ちゃん」だったか。
「ちょっと演習室に来てくれない?」
「演習室、ですか?」
大庭中尉から言われた内容はあっけらかんとしており、わたしは拍子抜けしてしまった。しかし、一体そこで何をするのだろう。大庭中尉はにっこりと微笑みながら口を開いた。
「実弾使うから、もし怖かったら二階にいてね。ありちゃんだから大丈夫だと思うけど、もしかしたら暴発する可能性がある。それだけは気をつけて」
「じ、実弾!?」
「うん、久しぶりにライフルが動くか確認したいし」
実弾。実弾とは、戦闘で使用する弾丸のことを言う。もちろんそれはわかっているが。
「どうしてわたしが必要なんですか?」
「ペイント弾みたいに本物じゃなかったらいいんだけど、実弾を使うとなると本当に危ないんだよ。万が一怪我人が出たときに、すぐ治療に当たれるように、演習や訓練でも看護師一人以上を同伴させないといけないって決まりがあるんだ」
「それなら菜美さんのほうがいいのでは……」
「菜美ちゃんには過去、何回も来てもらってるからねー。それに志保ちゃんも、そろそろ見てもらったほうがいいかと思って」
「そうね、いい頃合いかしらね」
今まで黙っていた佐々倉少尉も話に入ってきた。菜美さんも小さく頷いている。一体わたしは何を見せられるというのだろうか。
「じゃあありちゃんは志保ちゃんを連れて一緒に演習室ね。友里ちゃんもすぐ行くから! 菜美ちゃんはもうちょっとここの片付け頼んでいい?」
「「はい」」
「は、はい……」
力なく返事をしたわたしに、大庭中尉は小さく微笑んだ。
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