第71話 なんだかねえ、もうすこしカジュアルおしゃれな服なかったの

「それではわたしのサファイアの指輪と、あなたのルビーの指輪を交換しましょう」と、おれの兄貴は言った。

 言われたとおりにして、右手の薬指にその指輪を通した。

 指輪は一瞬、レゾナンスの輪のきらめきで光り、ゆるゆるだったものがちょうどいい大きさになった。指輪が小さくなったのではなく、おれの手が大きくなったのに気がつくのには、すこし時間がかかった。おれが世界を見る高さも、30から40センチ、ちょっとした階段の2段分ぐらい高くなっていた。

 そして、おれの目の前には、金色の瞳とビスク色の髪で、おれより30から40センチぐらい低い、なんか可愛い女の子がいた。その子は微笑を浮かべて、ルビーの指輪をしていた。

「なんだかねえ、もうすこしカジュアルおしゃれな服なかったの」と、その子は言ってくるっと回って手を差し出した。ひらひらのスカートではなくルーズな黒っぽいパンツなので回転しても別に面白くはない。

「どうもこんにちは。これが本当のわたし、つまりあなたの兄ではなくて姉。あなたが妹じゃなくて弟なのと同じなんだ」

 だそうである。

 その子は、どう見てもおれなのだが。

「あ…お、おしゃれな服は女装するときには着ないこともないんだけど」と、おれは言った。その声は低く、おれが聞き慣れてる声ではなかった。

「いやあ、どうも、参ったなあ。何なのこれ」と、おれは加山雄三の若大将みたいな感じで、頭をかいた。

 前のおれは、体は女子で心は男子、今のおれは体も心も男子である。おまけにハンサムボーイだ。やった、と心の中で叫んでみたけど、どうもリアル感がないうえに、目の前のおれだった体を持つ兄貴、じゃなくて姉貴ですね、の、愛玩動物的な動きに嫉妬する。勝手におれのバッグ開けて、イカくん出して食べてるし。

「ハチバン、ちょっとおれのそばに来て」

 おれは、何が起こったのかはっきりしないので、まばたきの回数がいつもより多くなっているハチバンを呼んだ。

 一緒に並んだハチバンの顔は、おれの目線よりすこし下にあって、どうも見慣れない。

「今でも言えるよ、おれはきみが好きだ、ハチバン。きみはどうなんだ」と、おれは聞いた。

 ハチバンはおれと、おれの体を持った姉貴を何度も見ながら頭をさげた。

「ご、ごめんなさい。返事はちょっと待ってくれないかな。なんかいきなりすぎちゃって」

 どういうわけか知らないけど、ブラノワちゃんと姉貴も立ち上がって、おれに最敬礼をした。なんか人が集まってきてる。ジャパニーズ・デュエル(決闘)? とか言ってる声も聞こえる。

「あー、この線から内側には入らないで」と、ハチバンはたたんだ日傘の先で地面に線を引き、ブラノワちゃんは、サアコイ、と構え、姉貴は引き続きおれのバッグをあさって食い物を探している。

 どうすんだこれから。

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