第25話 くそ、よくも見破ったな、名探偵

 おれとハチバン、それに美少女探偵ブラノワちゃん(とりあえず「美」ってのを入れてみました)の3人は会話を続けた。警察のほうの人であるピエールは黙って、ときどき携帯端末を覗いていた。おれはビールで、ブラノワちゃんはワイン、それにハチバンとピエールはコーヒーである。

「ビールを飲む子はビジン(美人)、じゃ、発泡酒を飲む子はなーんだ」と、おれはベルギーの発泡酒である初陣柚子ブロンドを飲みながらハチバンに聞いた。柚子の香りと味がしっかり、ではなくほんのりとしていて、朝の一番最初に飲む(初陣の)ビール(発泡酒)としてはおすすめできる。柑橘系テイストのビール(発泡酒)はだいたいハズレがない。

「えーと…あっ、わかった、ハッポービジン!」とハチバンは答えたので、おれたちはハイタッチをした。

 まあ、発泡酒なんて変な酒の種類があるのは日本だけだが。

「話を続けさせてもらえないかしら」と、ブラノワちゃんはかなりイライラを顔に出しながら言った。

「で、その怪盗フォーコンが狙っていたのがおれの持っていたルビーの指輪だったんですね」と、おれは言った。

「昨日の午後の、あなたたちの、くわしい動きを聞きたいわ」

「ところが実は街灯に仕掛けてあった防犯カメラに全部撮ってあるんですね」

「本当は慎重に取り扱いたい情報なんだけど、あなたは私立探偵らしいし、お友だちも関係者だから、特別に見せてあげるわね」

 おれたちはブラノワちゃんの後ろに回って、ブラノワちゃんは定番のネコ保存画像フォルダを、あっ、間違えちゃった、とテンプレ通り開いて、ちょっと待った、とおれは言って、ネコの恥ずかしい画像の品評を全員で5分ぐらいやったあげく、目的の動画を見ることにした。

「長いから、肝心のところだけ見ることにするわ」

「でも、肝心のさらに肝心なところは、なぜか動画が乱れていてうまく確認できないんですね」

「ハチバンが指輪を投げて、ナオがそれを拾って戻るところまでは、確かに変だわね」

 おれがコウモリに変身したあたりか。

「だけど、あなたが元の岸壁に戻るときの動作で、アクレナは妙な動きをしているのよ」

「そのときに指輪をすりかえた、ってブラノワちゃんはおれに思わせたいんだろうけど、実はその前にハチバンが、指輪を放るときにすり替えてるんですよね」

「つまり、あなたが拾ってきた段階では偽の指輪で、アクレナがあなたに見せたのは本物なのね」

「でもって、ブラノワちゃんはここで、今持っている指輪をちょっと見せて、と言って、おれが渡すと、ささっとすばやくすり替えて、ややや、これはまさしく偽物で、怪盗フォーコンに取り替えられたに違いない、って言うんですよね」

「えーと…」と、ブラノワちゃんは困った顔をした。

「本当の怪盗フォーコンはブラノワちゃんのふたごのきょうだい。ひとりは美少女探偵でひとりは怪盗をやっている。ふたりのおばあちゃんの養女、つまり義理の母親がアメリカで女優をやっていて、ルビーの指輪はおばあちゃんの家に伝わる秘宝。つまり、ここにいる、ブラノワちゃんって名乗ってる子は、実はノワール・ブラン、ノワブラちゃんだよね」

「え…え? そうなの?」と、ブラノワちゃんはさらに困った顔をした。

「そういうときは『くそ、よくも見破ったな、名探偵』とか言ってよフォーコンちゃん!」と、調子に乗ってきたおれをハチバンの物語が応援する。おれは赤川次郎みたいな話にしたかったんだけど、ハチバンは江戸川乱歩みたいなののほうがいいんだな。

「おれのほうは『ははは、残念だったなフォーコンちゃん。君におれが渡したルビーの指輪は偽物で、本物はここにちゃんと持っている』と言う」

「いやちょっと待ってよ、あたしは本当に名探偵で、美少女探偵で、エルキュール・ポアロの孫娘なの!」と、ブラノワちゃん(仮)は言った。

「それは著作権違反」

「うぐ…フィリップ・マーロウとかサム・スペードの孫ってのは?」

「どちらも版権切れてるけど、マーロウはゲイでスペードは早死だ。おれとしてはジェームズ・ボンドの孫あたりをおすすめしたいね。なんかあいつ、隠し子やたらいそうやん」

 アルセーヌ・ルパン4世のほうがいいかな。

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