第8話 8
・後輩ちゃんと毒舌さんと返本
お店に入ってきた本は、もちろん全部売れるということはありません。特に雑誌などは次々と新しい号が入ってくるので、古い本と入れ替えなければなりません。その為、本屋では毎日のように本を問屋さんや出版社さんへ返しています。
今日も、後輩ちゃんが毒舌さんと一緒に送り返す本を梱包していました。
「こうやって本をいっぱいまで詰めて、最後にバンドで締めるんです」
小気味いい音を立てながら、毒舌さんはバンドを締め付けていきます。
「はい。後輩ちゃんもやってみて下さい」
「分かりました」
後輩ちゃんは気合を入れると、バンドをぎゅっと引っ張って締めていきます。
しかし、毒舌さんのようにしっかりと締まりません。
この作業は手でやると、中々に力がいるので女の子には少々厳しいかもしれません。
「うーん、全然締まらないなぁ」
後輩ちゃんは悪戦苦闘しながらも締めますが、やはり上手くいきません。
対して横で作業している毒舌さんはビシバシと締めていきます。
「毒舌さん、何かコツとかありますか?」
「コツですか?」
毒舌さんは少し考え込んでから答えました。
「この段ボールを男だと思うと、とてもやりやすいですよ。ほら」
そう言って紐を叩くように引っ張ると、乾いた音が鳴り響きました。
「ほら。ほらっ」
毒舌さんのテンションが心なしか上がっていきました。
後輩ちゃんがツッコミを自重したので、オチはありません。
・店長と猫なで声
先輩さんと後輩ちゃんの働く本屋の店長はとてもコワモテでした。ただでさえ怖いのに、さらにスキンヘッドでした。働く場所を間違えてるとしか思えません。
後輩ちゃんがせっせと欲しかった本をスタッフ専用取り置きスペースに置いていました。
「あ、君○届け。誰のだろ」
本来は名前を書いたメモを貼ってから置くのが基本ですが、その某人気少女漫画には何も貼ってありませんでした。
「あ、それ店長のだよ。さっき忙しなくしてたから貼り忘れてたんじゃないかな」
先輩さんが教えてくれました。
「店長の……」
そう、スキンヘッドでコワモテの店長のです。
しかし外見で人を判断してはいけません。スキンヘッドだって少女漫画を読んだっていいのです。
後輩ちゃんがそんなことを考えてると、件の店長が戻ってきました。
近くで見ると迫力が増したように感じます。
店長はメモを君に○けに貼ると、満足そうに笑いました。ちょっと怖いです。いえ、大丈夫です。怖くない怖くない。
「すいません、ちょっと聞きたいんですけど」
そこへお客様が声を掛けてきました。
一番近かった店長が振り向きます。
お客様が少しびくついたのが分かりました。
そこで店長は破顔一笑。
「はい、なんでしょうか?」
外見からは想像もつかない丁寧な物腰と、柔らかい声で応対しました。
「店長のあれ、凄いよね」
「そうですね。びっくりしますよね」
そこへもう一人お客様がいらっしゃいました。
「いらっしゃいませー」
先輩さんが一オクターブ高い声と笑顔で応対します。
それを見て後輩ちゃんは思いました。
「うん、先輩さんもまぁまぁ人のこと言えないよね」
誰しも自分のことはよく見えていないということでした。
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