第6話 6
・後輩ちゃんと外国人
「おはよう、後輩ちゃん。シフト一緒なのは久しぶりだね」
「あ、先輩さん! おひさしぶりです!」
「聞いたよ、後輩ちゃんも色々学んでもう一人前だってね」
「そ、そんなことないです! まだまだ分からないことだらけです」
「そう? それなら分からないことがあったら、いつでも聞いてね」
「はいっ」
後輩ちゃんが元気よく返事をしました。
見る人が見れば、激しく振られる犬のしっぽが見えたかもしれません。
そして後輩ちゃんは、遠慮なく先輩さんに色々な質問をしていました。先輩さんも折を見ては指導をしています。
「先輩さん、これは――」
「あぁ、これはね」
「先輩さん、こっちのやつ」
「これはこうだね」
「先輩さん、年下は好きですか?」
「うーん、特にどっちでもないかな――って、なんの質問!?」
「え、それは、なんとなく?」
「聞かれても」
「まぁ、いいじゃないですか」
「うーん」
そんな事もありつつも、なんやかんやで指導は続きました。
(ふぅ、後輩ちゃん。アルバイト始めてからしばらく経つけど、まだまだ面倒を見てあげないといけないなぁ)
自分を頼ってくる後輩ちゃんを見て、先輩さんはそんな事をしみじみと思っていました。
と、そこへお客様が来ました。
「Excuse me」
外国人の方でした。
「え! えっと、は、ハーイ」
先輩さんがほんの一秒足らずで英語が全然できないことを露呈しました。
「I’m looking for――」
しかしお客様は気にせず話し続けます。本を探しているのは分かるのですが――本屋に来ているのだから当たり前ですが、それ以外のことはサッパリ分かりません。
「ok.I’ll see」
「えっ」
あたふたする先輩さんの横で、後輩ちゃんが涼しげな顔で応答しました。
なんと後輩ちゃんは英語が話せたのです。
「先輩さん、この本ってありますか?」
「え、あ、うん。確かあそこの棚にあったよ」
「ありがとうございます」
後輩ちゃんは先輩さんにそう言うと、お客様を案内して歩いていきました。
「……」
先輩さんは間の抜けた顔をしています。
少しして後輩ちゃんが戻ってきて、レジも済ませました。
「先輩っ。次はこれ教えてください」
「あ、はい」
「どうしたんですか、先輩さん?」
「いえ、なんでもないです後輩さん」
「後輩さん!?」
「生意気な事考えて、すいませんでした」
「せ、先輩さんどうしたんですか!?」
その後、しばらく先輩さんの敬語は続きました。
・後輩ちゃんとメガネさんとお取り置き
後輩ちゃんが欲しくなった本をスタッフ用取り置きスペースに置こうとしたときのことです。
「うわー」
「どうしたの、後輩ちゃん」
後輩ちゃんが驚きの声を上げると、近くにいた先輩さんが反応しました。
「いえ、取り置き棚いっぱいだなーって」
そう、取り置き用の棚がもう入らないくらいにいっぱいいっぱいになっていたのです。
「皆さん、たくさん取り置きますね。これ本当に全部買うんでしょうか」
「あぁ、それほとんどメガネさんだね。大丈夫だよ」
「え、そうなんですか。ジャンルばらばらですけど」
そこにあったほとんどはコミックでしたが、少年マンガから少女マンガからBLから何までと、無節操に取り置かれていました。
「うん、大丈夫だから」
「はあ」
後輩ちゃんは思わず生返事になってしまいました。
~数時間後~
メガネさんが帰った後、取り置き棚は綺麗さっぱり片付いていました。
「わお」
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