第5話 5

・先輩さんとチーフさん


 先輩さんとチーフさんが並んでレジに立っている横で、販促用CDが流れていました。

 本屋さんの中にはCDやDVDを取り扱っているところもあり、ここもその一つでした。

 今流れているのは人気バンドのベスト盤で、十年前くらいに流行っていた曲が主に流れていました。

 先輩さんもチーフさんもドストライクの世代です。

 そしてどちらかともなく、歌を口ずさみ始めました。

 二人はお互いにつられつつ小声で歌い、少しずつ声が大きくなり、

「~~♪」

「~~~~♪」

 割と大きめの声になっていましたが、お互いテンションが上がっていて気が付いていません。

 そして程なくして店長に怒られました。



・先輩さんとチーフさん+後輩ちゃんと毒舌さん


 先輩さんとチーフさんが楽しそうに喋りながら、作業をしていました。

 その様子をレジから後輩ちゃんと毒舌さんが見ていました。

「先輩さんとチーフさんって仲いいですよね」

「やっぱりそう思いますよね!」

 後輩ちゃんの何気ない呟きに、毒舌さんが過敏に反応しました。

「チーフさんって私には厳しい気がするんですよね」

「私にもそんな態度ですよ」

「え、毒舌さんにもですか」

 美人にも冷たいとは驚きの後輩ちゃんでした。

「でも、先輩さんとは楽しそうですよね」

「そうね、全くもってそう思うわ」

「やっぱり男同士の方がいいんでしょうか」

「ふむ」

「確かに同性の方が気は使わないですけど」

「……」

「あー、先輩さん楽しそうだなー」

「……」

「毒舌さん?」

「……やっぱり先輩さん攻めのチーフさん受けよね」

「え?」

 毒舌さんは腐っていました。

 後輩ちゃんも知識にないことはツッコめませんでした。



・後輩ちゃんと知らなくていいこと


「ふむ、やはり毒舌さんもそこに行き当たりますか」

「あ、メガネさん」

 いつの間にかレジにメガネさんがやってきていました。

 メガネさんはおとなしめの眼鏡をかけた文学女子を体現したかのような女の子で、この本屋では漫画を担当しています。

 毒舌さんとメガネさんは小声で密やかに盛り上がっています。

 話の見えない後輩ちゃんは首を傾げたまま、先輩さんとチーフさんの様子を見ていました。

「攻め……受け……野球か何かかな?」

 少ししてシフト交代の時間になったので、毒舌さんはレジを離れました。代わりに先輩さんがやってきました。

「おつかれさまー後輩ちゃん。引き継ぎある?」

「あ、おつかれさまです先輩さん。引き継ぎは、そこの本をシュリンクしといて欲しいとの事です」

「おっけー」

 先輩さんは床に置かれたコンテナを確認しました。

「そういえば先輩さん、一つ聞きたいんですけど」

「どうしたの?」

 先輩さんは本を取り出そうとしゃがみました。

「先輩さんが攻めで、チーフさんが受けってなんですか?」

 先輩さんがコンテナに足をぶつけました。

「な、何を言い出すの後輩ちゃん」

「いえ、さっき話してるのを聞いたので。なにかなーって」

「えっと……ナンダロウネ。ボクニモ、ワカンナイナー」

 恐ろしいまでの棒読みでした。

「そうですか」

 しかし後輩ちゃんは気付きませんでした。

 後輩ちゃんがその意味を知るのはまだ先のことでした。

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