第4話 4

・後輩ちゃんと毒舌さん


 本日の後輩ちゃんは、知的眼鏡美人の毒舌さんとレジで一緒です。毒舌さんは無口であまり喋りません。しかし見た目が美人なので、黙っていても華があり絵になります。担当は児童書です。

 後輩ちゃんはそんな毒舌さんと仲良くなるために頑張っていました。

「毒舌さんは本読むんですか?」

「そうですね」

「どんな本を読むんですか?」

 毒舌さんはにっこり笑って返しました。

(び、美人!)

 質問には答えてもらえませんでしたが、後輩ちゃんはおおむね満足なようです。

「あ、毒舌さん。これどこに片付けるんでしたっけ?」

「さあ。どこでしょうね」

 毒舌ちゃんは意地悪そうに微笑みました。

(い、意地悪! けど可愛い!)

 後輩ちゃんは意地悪されても嬉しそうでした。その後、ちゃんと教えてもらいました。

 何人かのお客様のレジ打ちをしていると、途中でスマホを凝視したままの男の子がやってきました。顔を上げることなく、本を出しました。割とよくある事なので、後輩ちゃんも毒舌さんも機械的にレジを打ちました。

「ポイントカードはお持ちですか?」

 しかし男の子はスマホに夢中で聞いていないようです。もう一度言うと、男の子は財布を取り出し、カードを出しました。もちろん視線はスマホです。

「一点で432円です」

 値段を告げましたが、男の子は緩慢な動作で財布を探っています。スマホを見たままなので、上手くお金を出せないようです。少ししてお金が出されました。

「ポイントカードお返しいたします」

 毒舌さんが差し出したポイントカードを男の子が受け取ろうとして、空振りました。スマホしか見てないのでそりゃそうです。

 困ったものです。

 後輩ちゃんも苦笑いです。

 毒舌ちゃんも苦笑い……してませんでした。目が笑ってません。毒舌さんはスマホの画面を隠すように握りました。

「ちょ――」

 男の子がようやく顔を上げました。そして何か言おうとして、絶対零度の眼差しに凍り付きました。

「お客様? スマホを見ていないと死んでしまうご病気か何かですか? では、いま顔を上げたから死ぬんですか? 大変ですね。さっさと病院に行った方がいいのではないですか?」

 美人に冷たい目で睨まれ、厳しい言葉を投げられた男の子はすっかり固まってしまっています。

 毒舌さんは男の子の手にそっとポイントカードとお釣りを握らせると。

「あ、あの……」

 男の子は顔を赤くして何かを言おうとしましたが、

「後ろのお客様がお待ちですので、さっさと帰れ下さいね」

「は、はい」

 男の子は顔を赤くしたまま帰っていきました。

 二人は退店していく彼を見送りました。

「ふぅ。愛想を振りまくのって疲れますね」

「いまの愛想だったんですか!?」

 後輩ちゃんはツッコミを覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る