第3話 3

・後輩ちゃんとゆるふわさん


 後輩ちゃんがアルバイトを始めて数日が経ちました。後輩ちゃんも少しずつ仕事に慣れていっているようです。

 本日は雑誌を担当するふんわり優しげなお姉さん、ゆるふわさんと一緒です。

「後輩ちゃん、この雑誌の付録付けお願いね」

「はい、ゆるふわさん」

 本屋さんで売られている雑誌は、お店に着いた時にはまだ付録とセットになっておらず、書店員の手で袋に入れられたり、縛られたりしてから陳列されます。

 後輩ちゃんはまだ慣れていないので、たどたどしい手つきで紐を縛っています。対してゆるふわさんは、にこにこしながらも超スピードで付録を組んでいっています。

「ゆるふわさん、凄いですね。どうやったらそんなに早く出来るんですか?」

「そうねぇ。自分の得意なことを活かせばいいんじゃないかしら。後輩ちゃんは何が得意なの?」

「うーん、吹奏楽部でパーカッションやってたので、太鼓を叩くのは得意です!」

 なるほど。後輩ちゃんは楽器を演奏していたのですね。しかし、それは付録付けには役に立ちそうもありません。

「じゃあ、雑誌も太鼓を叩くようにすればいいんじゃないかしら」

 ゆるふわさんが意味の分からない提案をしました。

「分かりました!」

 後輩ちゃんも何故か納得顔で元気よく返事をしました。

 どうやら、この二人ではツッコミが不足するようです。

 もちろんこれでスピードが上がっということはありませんでした。

「ゆるふわさん、どうやったら活かせるんでしょう」

 少しして後輩ちゃんがその無意味さに気付きました。

「あらそう。困ったわね」

「そうですね」

 会話が終わりました。

 しかし二人とも問題のないまま作業を続けています。

 ツッコミがいないのでオチもありません。



・後輩ちゃんとチーフさん


 今日は店長はお休みで、アルバイトチーフが店舗責任者を務めていました。小さな本屋さんではよくあることです。

「後輩ちゃん、これやっといて」

「あ、チーフさん。分かりました!」

 後輩ちゃんは元気よく返事をしたものの、よく考えたらその作業は教わっていませんでした。分からないままではどうしようもないので、チーフさんに質問します。

「チーフさん、これどうやるんですか?」

「これはこうやってこう」

 しかし、それでもよく分かりません。

「すみません、よく分かりませんでした」

「は?」

 チーフさんは不機嫌そうに声をあげました。ちょっと怖いですね。

 後輩ちゃんも怯えているようです。

「チーフさん? 後輩ちゃんをいじめたら駄目ですよ?」

「ひっ」

 その時、チーフさんの背後からゆるふわさんが笑顔でひょっこり現れました。声は穏やかだったのに、何故か後輩ちゃんの背中に寒いものが走りました。

「い、いや、いじめてはない……です」

 心なしかチーフさんも怯えています。

「少しお話ししましょうか」

「いや、本当に何もしてない――ゆるしてぇぇぇ」

 ゆるふわさんは問答無用でチーフさんを引きずっていきました。チーフさんの声が残響のように尾を引いて消えていきました。

 後輩ちゃんは思いました。

 ゆるふわさんは怒らせてはいけないと。

「あ」

 そして思い出しました。

 やり方の分からない作業が残っていたことを。

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