第2話 2
・後輩ちゃんとお札
次に先輩さんはレジの中の説明をすることにしました。
ドロワーの中にはたくさんの種類のお金が入っています。
「これを押したら、ドロワー――レジのお金入ってる所が開くから」
「おぉ、たくさん入ってるんですね。レジの中、初めてみました」
「まぁ、小売業しないとレジなんて見る機会ないからね」
先輩さんが千円札を数枚取り出しました。
「お札を数えるときはこうね」
先輩さんは慣れた手つきでお札をめくって数えていきます。一通り数え終わると後輩ちゃんに渡しました。
「最初は慣れないと思うけど、やり方だけ教えておくね」
後輩ちゃんは言われたとおりにお札を持って、めくりましたが、やはり思ったようにはいきませんでした。
「まぁ、最初のうちは仕方ないよ。やってるうちに慣れていくから」
「はい、分かりました!」
後輩ちゃんは言われるがまま練習していましたが、ふと手を止めてお札をジッと見詰めました。そして、おもむろにお札をうちわ上に広げると自身を扇ぎ始めました。
「後輩ちゃん……」
「あ、すいません先輩さん。こんなたくさんのお札を見るの初めてで」
謝る後輩ちゃんに、先輩さんは五千札を取り出して、
「こっちの方が豪華」
と言って扇ぎ始めました。
「そ、それなら私は万札で――」
「先輩さんと後輩ちゃん?」
「あ、店長」
二人は仲良く店長に怒られました。
・後輩ちゃんとおばあちゃん
「後輩ちゃん、もしお客様からお問い合わせとかあったら、すぐに僕に振ってくれたらいいからね。もしできない場合はお問い合わせ内容をメモして待っててもらってね」
「はい、先輩さん」
そして後輩ちゃんは言われるままに、お客様からのお問い合わせを先輩さんに回していきます。
「これは私上手くできるのでは」
後輩ちゃんは内心でガッツポーズをしました。
そんな時、新たにお問い合わせのお客様がきました。ご年配の女性でした。
後輩ちゃんは華麗に先輩さんへと引き継ぎます。もはや後輩ちゃんのパススキルは完璧ではないでしょうか。
「テレビで紹介された本なんだけどねぇ」
「え? あ、はい」
油断していた後輩ちゃんにおばあさんが話しかけていました。後輩ちゃんは責任感強く、これも接客としておばあさんの話を聞いています。先輩さんが本を調べている間、ずっとおばあさんは話し続けました。途中から本の話ではなくなっていました。
「お客様、申し訳ございません。こちらの本はただいま売り切れていまして、お取り寄せになります」
「あらそう。それなら、お願いしようかしら」
「はい、かしこまりました」
先輩さんは注文用紙を作り始めました。後輩ちゃんはなおも続くおばあさんの話を聞いています。
「では、こちらが注文書のお客様控えです。入荷しましたら、ご連絡させて頂きますね」
こうして、おばあさんのお問い合わせは終わりました。
しかし話は終わらなかったのです。
おばあさんは話し続けます。もはや本の話などどこへ行ったのか。
後輩ちゃんは聞き続けます。どうしたらいいかも分からず聞き続けます。助けを求めるように先輩さんを見ました。
(頑張って)
しかし返ってきたのはサムズアップと応援でした。
(ひえぇ~)
結局、おばあちゃんの話が終わったのは30分が経ってからでした。
・先輩さんと後輩ちゃんと電話
「電話でのお問い合わせも多いけど、後輩ちゃんはお店の業務に慣れるまでは出なくてもいいからね」
「はい、先輩さん」
トゥルルル
「はい、後輩です」
「あ」
「あ」
・後輩ちゃんバイト初日を終える
閉店時間も間近に迫った頃、お馴染みのBGMが店内に鳴り始めました。
「後輩ちゃん、バイト初日お疲れ様。どうだった?」
「はい、お疲れ様です先輩さん。やっぱり働くのって大変ですね」
「そうだね」
「でも」
「でも?」
「楽しかったです」
後輩ちゃんは素敵な笑顔で言いました。
「そっか。それはよかった」
先輩さんも笑顔で返しました。
そうしている内にBGMが止み、閉店となりました。
かれこれありましたが、後輩ちゃんの一日は無事終わりました。
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