本屋日誌 ~先輩さんと後輩ちゃんと~

林檎亭みーすけ

第1話 後輩ちゃんアルバイトをする

・店長と先輩さん


 とある町のとある本屋。

「先輩くん、ちょっといいかな?」

「あ、店長。どうしたんですか?」

「今日から新人が入ることは知っているよね? 君に教育係を頼みたいんだ」

「え、僕ですか? 構いませんが、僕まだ入って半年ですよ?」

「そうなんだけどね……他の子たちはほら、ちょっと人見知りじゃない」

「あぁ……」

 その本屋さんはコミュ障だらけでした。



・後輩ちゃんと挨拶


「初めまして後輩ちゃん。僕は教育係を任された先輩だよ、よろしくね」

「は、はじめまして後輩です! よろしくどうぞです!」

 後輩ちゃんはたどたどしくもやる気が全身から漲っていました。

「それじゃあ、最初はお客様への挨拶から始めようか。ご来店されたらいらっしゃいませ。お帰りの際はありがとうございました。僕のあとに続いて言ってくれたらいいからね」

「はい!」

「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませ!」

「ありがとうございましたー」

「ありがとうございました!」

「うん、いい感じだね。その調子で頑張ってね」

「はい!」

「とは言ってもずっと入り口を見てはいられないからね。他の所も見つつ、挨拶をするようにしようね」

「そ、そんな事が出来るんですか?」

「うん、なんか慣れてきたらそのうち出来るようになるよ。なんかこう、気配とかで」

「ほへー。気配ですか。修行とか必要ですか?」

「いや、修行はいらないかなー」

「……」

「……」

「滝行とか」

「ないから」



・後輩ちゃんとメモ


「それじゃあ後輩ちゃん、レジ内の物の配置を教えていくけど、メモは持ってる?」

「はい、万端です!」

 後輩ちゃんは意気揚々とメモ帳とペンを取り出しました。

「じゃあ、まずは……」

 先輩さんは端から順に一つずつ丁寧に後輩ちゃんに説明していきます。

 後輩ちゃんはメモ帳とペンをしっかと握り、真剣な顔をして聞いています。

 程なくして説明が終わりました。

「こんなところかな。どう後輩ちゃん?」

「はい、先輩さんの声って低くてカッコいいですね!」

「え? あぁ、ありがとう」

「――あっ、先輩さんどうしましょう!」

「どうかした? 取り忘れあった?」

「先輩さんの声を聴くのに夢中でメモ取ってませんでした!」

「……じゃあ、一から行こうか」

「はいっ」



・後輩ちゃんと新語


「ウチの店では会計方法がいくつかあって」

 先輩さんが後輩ちゃんにレジを教えていました。

「大丈夫? メモ取れてる?」

「ば、バッチリです」

 同じ過ちは起こしません。先輩さんは小まめにメモをチェックしていました。

「うん。まずは現金でしょ。あとはクレジット、図書カード、図書券、交通ICカード、EDYにⅰD」

「現金……クレジット……としょ……いー」

 後輩ちゃんは必死にメモに書きこんでいます。

「あ、早かった? もう一度言う?」

「だ、大丈夫です。多分」

「それじゃあ、おさらいね。メモ見ながらでいいいから、支払方法を言ってみて」

「はい。えーっと、現金、クレジット、図書……カードと券、通行じゃなくて交通カード。それと、えーっと」

 後輩ちゃんがかなり悩んでいます。急いでメモを取っていったので、最後の方が殴り書きになっていて読めなくなっていたのです。

 それでも後輩ちゃんはなんとか読もうとします。

「いー、えー、で、でぃ? いー、いーでぃー?」

「それ外で絶対に言わないように」

メモは取り直しになりました。

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