合流

 廃屋での生活が十日ほどになったころには、もう腕は指先まで十分に動かせるようになった。

 すぐにでもエイブラハムと合流して仕事を再開したいところだが、過ぎ去りかけといえども焦熱期だ、特有の残暑が厳しい。

 青龍の玉で作った魔道具ソーサリー・ツールも残量に限りがある。石馬もなしにとろとろ移動していてはすぐに使い果たしてしまうだろう。


 情報の入りやすい塔下町で合流を待つことも考えた。だがエイブラハムは今、『雲裂塔クラウドブレイク』に追われる身だ。かの塔はその手の情報発信・収集にやたらと力を入れる。

 それを一番熟知しているであろうエイブラハムは、人の多い所に顔を出すことはできるだけ避けるだろう。

 

 では打つ手がないのかといえば、あった。

 セレンら魔道具人形ソーサリー・ドール姉妹は、お互いの位置がなんとなく掴める。

 この力を活用すれば、合流はそれほど難しいことではないだろう。それぞれが姉妹一人ずつと同伴していたことは幸いだった。

 

 しかし、シアに感知を頼んでいたセレンの気配は、この廃屋がある地点から遠ざかり気味だった。

 その方向は『千重塔サウザンド』跡地がある方向と一致した。これを受けて俺は、エイブラハムは合流を諦めて、目的地まで向かうつもりなのかと思っていた。だがつい数日前、こちらへ反転を始めたらしい。

 

 こちらに向かっているのであれば、通り過ぎられでもしない限りは待っていればいいだろう。

 という結論の下、俺は手のリハビリを兼ねて、手持ちの魔道具ソーサリー・ツールを構成しなおしていた。

 

 さて試し撃ちでもしようか、という具合まで作り終えたところ、物音が立っていることに気付く。シアが目を覚ましたのかと思い目をやるも、変わらずカバンを枕に横たわっているままだ。

 彼女はこの丸一日ほど眠りっぱなしでいる。どうやら俺の看病をしている間は一睡もしていなかったようで、俺の指が動くのを確認したら途端に崩れるようにして眠りに就いた。

 

 姉妹が持つ『蕾』とは違い、シアのものは身体能力にあまり影響を与えないと言っていた。

 だが十日もの期間、睡眠を取らずに活動していたことは十分驚愕に値する。やはり他の姉妹と比べてのことなのだろう。

 

 シアは寝返りを打たない。彼女が音を立てるとすれば精々、寝息くらいのものだ。というより、ドタドタと存在を隠そうともしない複数人の雑踏だと認識した時点で、その線は頭から雲散霧消していた。

 

 俺達が仮宿にしていた洞窟には、他にも廃屋が並んでいた。それらを捜索している連中の会話を盗み聞いて、奴らの用事を推測する。


 うーん、シアが出入りする瞬間でも嗅ぎ付けられたか。

 俺ではなく、シアに用事があるようだ。

 

 人攫いだ。塔の人間から接触があった、という時点で思考の片隅にはあったものだが、案の定実行してくるか。

 エイブラハムと、範疇に含めていいかわからないがイヴを見ればなんとなくわかるように、塔の人間というのは我慢という行いがどうも苦手らしい。それはどの辺りでも変わらないようだ。

 

 今回も、こうして金に物を言わせて女を確保しようとしているようだ。

 

「シア、シア」


「……」


「こりゃだめだな」


 シアの眠りがどうしようもなく深いことを確認すると、目を覚ましてもらうのは諦めて、肩にしな垂れかからせるようにして抱える。彼女が枕にしていたカバンも、その反対側に肩に掛けた。

 戦闘なんてまるでこなせない状態だが、今回は準備がいい。

 相手が精々蛮族や野盗に毛が生えた程度の存在なら容易に務まるだろう。

 

 俺が先程までいじっていた、魔道具ソーサリー・ツール

 拳大のそれを杭の先端に括り付けると、目立たないように地面に突き立てる。こちらは念のため。

 そして、連中が立てる音が聞こえない方の出入り口に向かい、外を確認してから静かに抜け出る……前に、本命の杭を入口の真下に複数差し込む。

 

 奴らの内数人が俺達が住んでいた廃屋に入った途端、動きが変わった。明らかに生活の跡があることで、待ち伏せを警戒しているのだ。

 だが既に蛻の殻であることを確認すると、安心したのか部屋の物色を始めた。

 

 よし、ここらでいいか。

 新しい腕に意識を集中させる。要領は、普段魔道具ソーサリー・ツールに信号を送るときにやるような感じだ。

 

 差し込んだ杭に結び付けていた魔道具ソーサリー・ツールから、一筋の光が放たれる。

 今まさに出入り口を跨ごうとしていた一味の男は、慌てて足を引っ込めるが、どうやら遅かったようだ。

 

 杭が放った爆風は男を包み込み、戸口上枠の岩石を巻き込んで崩壊した。

 

 積み重なった岩の向こうからは、男達の怒号が聞こえてくる。

 金で仕事を選んだのが運の尽きだったな!

 

 俺は勝利を確信すると、連中が入ってきた方とは反対側の出入り口を目指して、洞窟の奥へと進んだ。

 

 差し込んできた光に目を細めながらも、完全には閉じ切らない。連中の仲間がいないかを確認しなければならない。

 

 確認できたのは、石馬が二体と、フードの人物が三人。

 思わずとっさに壁に身を寄せるが、石馬に改めて目をやると、それが実になじみ深い、見覚えのあるものだということに気付く。

 

「クレイグ!」


 彼らの方から見つけてもらえるとは、ツキがあった。

 手間が明確に目減りしたことを実感して、俺の口角は自然に上がった。

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