打開策

「勝算があるって言ってたけど、どうするつもりなの?」


「ああ、まずはアンヘリカと合流しないとな」


「鬼人さん?」


 青龍が見えない程度に撤退した俺は、案外すんなりと落ち着きを取り戻したセレンを加えて予定を明かす。


「恐らく、この辺の水の魔力が強くなっていたのはあいつのせいだ。見た感じ、身動きが取れない青龍は毒で追い払うしかないからな」


 シアは、水の魔力の影響下における能力に、自信がある様子を見せていた。どうせ、水の魔力を活用する『蕾』を持っているのだろう。

 だが、ボルトを受けた直後の挙動。俺はすぐにアンヘリカの射撃位置を特定できたが、シアの方は顔をきょろきょろとさせて、ついには見つけることができていなかった。


 この様子を見るに、彼女が戦い慣れていないのは明白だ。

 攻撃が飛んでくる方向をあらかじめ把握していなければ、迎撃がままならないことを知ることができたのは幸いだった。


 では、どのようにして彼女を攻略するかと言えばだが。

 そこらの地面から、粘土を拾い集めながら俺はエイブラハムに頼む。


「学者殿、すまないがまたさっきの辺りに戻って、アンヘリカを呼んできてはもらえないだろうか」


「御安い御用ですぞ」


「セレンは……そうだな、粘土を集めてくれ」


「粘土? うん、わかった」


 さすがは魔道具人形といったところか、みるみるうちに粘土を掘り当ててきては山のように積んでいくセレン。

 自分の『蕾』に合致しない魔力の漂う地だとはいえ、それでも俺よりは身体能力が高いらしい。


「これくらい集まれば十分だ! 後は正方形の板状に固めて……」


 反射板の制作には、正方形であることが欠かせない。他の形状では魔力の維持が難しいのだ。

 できた粘土板の表面に、カガタケヤモリの体液を塗りたくる。三枚ほどに広げた時点で空になってしまったが、十分だろう。


 その表面を、水の魔力を使って燃えるデタラメキノコ、ゴウエンタケの炎で炙って固める。

 水の魔力による毒性に溢れたゴウエンタケを、素手で触ることはもちろんしない。しっかりと土の魔力を染み込ませた軍手を着用した上での作業だ。

 本来はセレンの『蕾』が暴走した時の為、土吸紙の代わりに用意していたものだったのだが、意外なところで役に立ってくれた。


 次第に、粘土板の表面が鏡面のような輝きを発し始める。

 それを見て大凡の作業が済んだと実感を得たところで、エイブラハムがアンヘリカを連れて戻ってくる。


「よう、さっきぶりだな」


「子守りはちゃんとやってくれ。こっちまで迷惑がかかる」


「ああ、悪かったな」


 不機嫌そうな顔をしたアンヘリカが文句を言ってきたが、今はそれ所ではない、軽く流す。

 

「頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」


「あの女を排除することに関わる頼みなら、いくらでも引き受けてやるぞ」


 アンヘリカの目には、怒りが浮かんでいた。

 それもそうだろう、己が住む地を追い出されそうになった要因を目にすれば誰でも多少の怒りくらいは覚える。

 もともと、鬼人達は青龍という存在を神聖視している。彼女の場合はなおさらであろう。


「じゃあ早速だが、その板を適当に奴の周囲に設置してくれ。その場所を覚えておいて、適当に利用しながら攻撃を頼む。俺たちはその陽動をする」


「意図が読めないな。その板はなんだ?」


「これは反射板だ」


 魔道具に関する知識が乏しければ、その疑問も尤もだろう。この手の物をできるだけ簡潔に説明するなら、実演してやるのが一番いい。

 俺は反射板をその辺に立てかけると、少し離れて石を投げつけた。


 反射板は石がぶつかった瞬間光を強く発し、入射角と同じ角度で反対側へ石を跳ね飛ばす。

 板は鏡面のような輝きを失うが、数十秒すると元に戻った。


「これでどういう代物かわかったろう。奴は、あんたのボルトに反応できなかった。それは奴が認識できていなかったから、目にしていなかったからだろう」


「……何がしたいかは理解できた。寄越してもらおう」


「それなりに重いぞ。気を付けろ」


 アンヘリカに三枚束ねて反射板を渡す。俺は両手で抱えて差し出したが、彼女は易々と片手で持ち上げ、肩に担ぎ上げた。


「へえ、やっぱ鬼人なんだな」


「これでも女だ、筋力は弱い方なんだけどな。このくらいの重さなら余裕さ」


 粘土板を抱えるや否や、アンヘリカは青龍の横たわる方へと消えていく。

 少々の時間をおいてから、俺達もその後に続く。

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