我が子が一番可愛いねって、そんなお話
第一部258話以降読んでいればたぶん、大丈夫だと思います……。
・ハリー、針鼠型希少獣イレナケウス、アロンソが主
・ヒナ、蝙蝠型希少獣ウェスペルティーリオ、ウスターシュが主
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学校というところが、大好き。
まじゅうまものせいたいけんきゅう、というなんだか大変なお勉強のところへ行くと、お友達がたくさんいるから、もっと好き。
ハリーは、いつもいっしょに遊んでいるヒナのことも好きだし、お勉強のところで会うタマラやルル、ゲリンゼルも好き。
ある日、新しいお友達がふえたんだ。
フェレスっていう子。
お勉強のところでは一番大きい子だった。ふさふさであったかくておもしろいから、みんないっぺんで大好きになった。
ハリーも乗せてもらって、お馬さんごっこをした。みんな一回は乗せてもらったし、しっぽのお布団に包まった。
ゲリンゼルなんて山羊なのに、乗っていたんだよ。あるじのステファノに怒られていたけど。
フェレスはハリー達に、新しい遊びを教えてくれた。
きれいな石を集めることや、つるつるの木の枝の探し方。
ふくざつな絵みたいなのがついた皮は、みんなでうっとり見つめたよ。
穴掘りがあんなに楽しいなんて知らなかったし、木登りっていうのはとっても楽しいらしい。
時々、あるじのシウに怒られていたけど、ハリー達は気にしてない。
だって、目が優しいんだもの。
ハリーのあるじのアロンソも、同じ目をしてる。
フェレスが来るまで、ハリー達はかわいいねって言われるのがお仕事だった。
でも、フェレスがよくじまんするから。
この間はシアーナかいどうに行ったよ、いっぱい飛んではたらいたよって。
ごほうびに、おいしいものを食べて、それからつるつるの石を持って帰ったんだって言うの。
だから、ハリー達もお仕事がしたくなった。
アロンソが、ハリーはそのままでいいって言うけど、そんなのはいや。
だから、ヒナとお話して、決めたの。
あるじのために、がんばろうって。
でもどうしたらいいのか分からなくて、いっぱい考えて、思いついた。
◇
ヒナは飛べるから、お手紙便をやることにした。
あるじのウスターシュにお願いして、アロンソの部屋に届けるんだ。
窓から出してもらうと、おとなりのアロンソの部屋の窓をこんこんする。そうしたらハリーが気づいてアロンソに教えてくれるんだ。
「きーきー!」
お手紙便だよ!
って伝えたら、アロンソには通じないけど、ハリーには分かるから。
ハリーが、アロンソに伝えてくれる。
「ありがとう、ヒナ。じゃあ、返事を書くから、それを持っていってくれるかい? ハリーも教えてくれてありがとう」
「くぇ!」
「きーきー」
ほめられてうれしくて、ハリーと良かったね、と言い合った。
お返事便を持っていく時、アロンソはヒナにお礼の品までくれた。
キャンディだ!
ヒナはお礼を言って、また窓の外に出た。
ウスターシュは心配して待っていてくれた。
「きー!」
「ああ、戻ってきた。大丈夫? おっと、お手紙と、それは?」
「きーきー」
「キャンディか。お仕事のお礼だね。良かったね」
「きー!」
ウスターシュは手紙を見て、ふふっ、と笑うとヒナを抱っこして窓を閉めた。
今日はもうお仕事は終わり。
ヒナをいつもぶら下がっている木の枝まで連れて行ってくれる。
この枝は、ウスターシュが冒険者ギルドではたらいている時に拾ってきたもの。
フェレスがじまんしていたのを、いいなって見ていたヒナのために、持って帰ってきてくれたんだよ。
まがりぐあいが、とてもいいの。
逆さにつかまると、ウスターシュがやってきて、にこにこ笑った。
「お仕事、楽しい?」
「きー!」
「そっか。じゃあ、また頼むね」
「きーきー」
うれしい。
ヒナ、幸せ。
フェレスみたいな、人を運んであげるお仕事はできないけど、ちゃんとやったよ。
ハリーも誰かが来たら教えるってお仕事をしてるし、ヒナ達もりっぱにやれてるってことだよ。
……でも、タマラはネズミだからお仕事は大変そう。
この間チーズの場所をあるじのルフィナに教えてあげてたけど、それってお仕事かな?
小さい鹿のルルもお仕事できるかなあ。
ゲリンゼルはちょっと大きいから、運べるかも。でもステファノは大きいからぺしゃってなっちゃうかもしれない。
……ヒナ、じまんするのはやめようかな。
明日の朝、ハリーとお話しよう。
「そうだね、相談して決めたらいいよ」
「きー?」
すごい、ウスターシュ、ヒナのこと分かったの!?
あるじってやっぱり、すごい。
ヒナは飛んでいって、ウスターシュに張り付いた。甘えると、なでてくれる。
「よしよし。それにしても、フェレスは大旋風だなあ。楽しいこともいっぱい、新しいことも沢山連れてきたね」
「きー?」
「分からなくてもいいんだよ。ゆっくり、覚えていけばいいんだから。慌てなくていいよ」
「きー」
ウスターシュが言うなら、それでいいの。
ヒナはハリーやみんなと会える明日を楽しみにした。
◇
ハリーはヒナとお話して、お仕事をしたことは言わなかったよ。
できなかった子が、しょんぼりしちゃうかもしれないから。
アロンソはえらいね、大人だねってほめてくれた。
あとね、フェレスはおだてたらいいんだって。そういうそだてかたをするんだって。
わからなくて「くぇ?」ってなってたら、アロンソがにこーって笑った。
「可愛いなあ、もう。……とにかく、あそこは天然すぎるから、そのまま素直に良いところを伸ばして育てているんだよ。フェレスを真似しなくてもいいからね。僕はどんなことをしているハリーでも好きなんだから」
「くぇ……」
針のない、やわやわのおなかをいっぱいなでてくれて、アロンソはちょっとむずかしいことを言った。
アロンソが言うなら、ハリーはそのとおりにする。
おだてて、そだてるの。
まねはしなくても、いい。
でもね。
ハリーはやっぱりお仕事はするよ。アロンソのためだもの。
だから、お部屋にだれかが来たら、くぇ! って鳴いて教えてあげる。
◇
ずっと後になって、ハリーは「不審者発見警報器」という名誉あるあだ名を付けられた。
ヒナは夜でも誰にも知られずに連絡できる「秘密便」として重宝された。
そのあるじ達は、可愛い小型希少獣のことを話す時、目尻を下げて自慢したとかしないとか。
そんなお話。
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