その勇者、虚ろにつき

作者 上屋

59

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★★★ Excellent!!!

のっけから凄まじい展開が繰り広げられる本作は『異世界転生』のジャンルに含まれつつも、テンプレートからは大きく逸脱した描かれ方がされています。
生まれつき心が壊れ、虚無を抱き、さながら「バットマン・シリーズ」の「トゥー・フェイス」がごとく、コインの裏表で自らの行動を規定していく主人公カゲイ・ソウジの生き様は、転生先の世界で大きな波乱を爆撃のごとく生んでいきます。魔王を倒す勇者としての使命を背負って歩むその姿は、ある人から見れば狂気の殺戮者にしか見えない一方、ある人からはとらえどころのない人物として、またある人には頼れる人物という印象を与える。
とにかくキャラクター一人一人によってカゲイ・ソウジという人物の捉え方が大きく違うから、非常に魅力ある主人公として仕上がっているのが、本作の白眉なところでしょう。
ヘヴィメタル・バンドの名前を魔術名にもってくるあたりのセンスは抜群で、ここからも分かる通り、とにかく「言葉」に対する嗅覚がものすごい作者様です。どういう場面でどういう言葉を配置すれば読者の心を刺激できるかを熟知しているとしかいいようのない重厚且つ精緻な描き方は、商業作品でも滅多にお目にかかれません。
特に圧巻すべきはバトル描写です。もうバトル描写をするのに特化した独創的な文体が画面の中で乱舞するたび、こっちのテンションは常にエンジンフルスロットルで爆上がり状態。次はどんな魔術が?次はどんな強敵が出てくるんだろうとワクワクさせられる一方、一切のご都合主義を排したシビアなストーリー展開をつきつけられ、そこに物語内のリアリティを実感させてくれます。
とにかく面白すぎて(ある意味では)罪深い作品です。読んで損はありません。