第11話 事件前夜
「うどわぁ!?」
私は思いきり飛び起きた。ちょっと寝るつもりがとんでもない時間になっていた。
「疲れていたみたいですね」
寝室に入って来たタータが小さく笑った。
「あーごめん。軽く寝るつもりが……」
頭をボリボリ掻きながらタータに詫びた。
「いえいえ、さっそく食事にしましょう」
どうやら、私の起きるタイミングを待っていたらしい。遅すぎる晩餐が始まった。
「そういや、タータ。家業ってなにやっていたの? あなたの家ってパン屋でしょ」
家業の手伝いなんて今さらだろうし、なぜ3日限定?
「いえ、お父さんの趣味で戦車を買いまして、そのメンテナンスの手伝いに……」
タータの目が僅かに流れた。嘘だ。
「どんな趣味よ。嘘つくならもうちょっとマシな……」
ドン!!
どこからともなく大砲の発射音が聞こえ、けたたましいアラームが鳴った。慌ててドアを開けると、庭のど真ん中に白い煙りを吐く発煙弾が撃ち込まれていた。暗闇で遠くは見えないが……。
「……」
マジかよ!!
「す、少なくとも嘘ではないみたいね。真実でもないみたいだけど……」
タータがピクリと肩を動かす。嘘が下手だ。
「うちは多角経営なんです。色々やってまして……」
ふーん。まぁ、いいか。
「少し嘘を磨きなさい。大人の女は見抜くわよ」
ニヤッと笑ってやると、タータは青い顔でうなずいた。
「さて、食事を続きましょ。久々な感じがするわ」
こうして、夜も更けていくのだった。
「全く、さすがポンコツ……」
新規導入したハーフトラックのエンジンを掛けようとしたら、うんともすんとも言わない。これではタータを送れない。
「先生も趣味人だったんですねぇ」
暢気な呟きを無視して、ボンネットを開け修理に掛かる。さほど難しくはないが……パーツがない。ないならないで流用だが……適当なのあるかな?
「よし、これでいけるかな……」
ボンネットを閉め、やたら重いスタートボタンを押す。ガタガタと凄い振動と共に、エンジンが掛かった。これで良し。
「タータ、行くわよ!!」
彼が助手席に座った事を確認してから、私はクソ重いクラッチを踏んだ。いつもの小道を抜け街道へ。長い行列に並ぶと……暇だ。
「あ、軍の隊列が来ますね」
タータの声に背後を振り向くと、軍の大型トラックの隊列が迫ってきていた。
……これはチャンス。
軍はチェック省略なのでスムーズに入れる。私はトラックの隊列が過ぎて行くのを待ち、すかさず最後尾に付いた。ボロいとはいえ一応軍用車両。ガタガタともの凄い衝撃を伴いながら、街門をフリーパスで通過した。
「ズルイですねぇ」
タータがのんびりつぶやいた。
「いいのよ。変な物持ってないし」
一応、この街の住人ではあるし、通行税を払う必要はない。つまり、待つだけ無駄なのだ。ガタガタとタータの家の前に到着し彼を降ろす。
「これは先生。なかなか趣味が合いそうですな」
中から出てきたテリアさんが、私のハーフトラックを見て興味津々だ。
「お金なくてこれしか買えなくて……」
これは本当だ。お金さえあれば、もうちょっと……。
「いえいえ、これは貴重なモデルですぞ。少々貸して頂けないかな?」
テリアさんが店から出てきた。
「構いませんよ」
私が運転席から降りると、異常に手慣れた様子で運転席に座り、ガタガタとどこかに言ってしまった。
「戦車買ったっていうのも満更じゃなさそうね」
私はタータに言った。
「お父さんの悪い癖です。少し待っていてください」
タータと雑談する事しばし。帰って来た私のハーフトラックは、ぴかぴかに光り輝いていた。
「ちょっと整備と洗車しておいた。予備エンジンや細かいパーツも積んである。そういうものを扱う専門店を知っていてな」
「ええっ!?」
言っておくが、金ないぞ!!
「なに、代金はあとでで構わん。いつも世話になっているお返しだ」
タータのお父さんであるテリアさんが、ニコニコ笑顔で言う。
「はぁ……」
まあいいか。予備パーツはありがたい。
「では、また来ます。ありがとうございました」
私はハーフトラックに乗り、ガタガタと進み始める。整備のお陰か全ての操作系が軽くなっている。
「さてと、帰って寝るか……」
気分良く走りながら、私はつぶやいた。帰ってみたら、とんでもない事になっているとは思わず……。
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