第8話 スパロー先生の恋愛教室?

『おい、どうした。今日は随分不安定な操縦だぞ』

 隣を飛ぶスパローが警告をくれる。いかんいかん。

 昨日の「132才ショック」からまだ抜けられない私は、いつも通りタータが起き出す前に朝の散歩に出ていた。帰ってから朝食をとり、そのまま授業をやって終わったら自宅に送る。そして、夕刻になって「散歩」から帰って来るくらいに、再びタータがやってくる。これがサイクルだ。

『いつもとコースが違うぞ。いいのか?』

 私は言われてハッとした。いつもは西の海へ向かうのだが、今の進路は北。この速度で突き進んだら、数分で隣国の国境線を越えてしまう。ヤバい!!

 しかし、スパローの警告は遅きに失した。どこからともなく2機の戦闘機が現れ、こちらの左右を固めた。

『こちらタイフォン王国防空隊……』

 万国共通の救難無線から相手の声が聞こえる。ヤバ、スクランブル掛けられた!!

 隣国タイフォン王国にも、大量の兵器が輸出されているのは言うまでもない。当然、ミサイルを積んだ戦闘機も飛んでくるのだ。

 ここで、慌てて進路など変えようものなら撃たれかねない。敵意がない、これは民間機である事を告げ、相手の指示に従ってゆっくり転進する。

 そして、私は自国領空へと戻った。全く心臓に悪い……。

『今日は切り上げるか?』

「いえ、海行きましょ、海!!」

 そして、私はいつもの海上に出た。少々荒っぽい操縦だった事は認める。そして帰宅。着地ポイントである四角で囲った✕マークから大きく外れそうになったが、そこは根性で何とか所定の場所に降ろす。例え外れたところでさほど違いはない。軽く整地を施してある程度だ。しかし、そこは意地がある。外れた場所に降りたら、今日1日が終わる。気持ち的に。

『全く見ていられんな。なにがあったか言ってみろ』

 スパローが珍しく相談相手になってくれるらしい。期待はしないが話してみよう。

「あのさ……」

 私が付き合っているタータ実は132才だったこと。そんな彼からガチで恋心を寄せられている事。どうしていいか分からない事を素直に話した。

『何を恐れる。私など2354才だぞ』

「……」

 ちょっとでも期待した私が馬鹿でした。

『とまあ、冗談はさておきだ。恋に年齢など関係なかろう。そもそも異種族同士だ。100程度の年の差などよくあることだ。問題は気持ちだ。お前はあのガキンチョをどう見ている?』

「……」

 すげぇ、ドラゴンなのに。

『なに、私も異種族結婚だ。やはりエルフでな。もうかなり前に亡くなったが……』

 はい?

「け、結婚経験あるの?」

 トンデモねぇこと言い出してます。

『もちろんだ。その経験を踏まえて言えば、結婚と恋愛は別だ。それはまあ、そのまま成就できればいいがな……と、話しが逸れていくな。お前はあの坊主をどう思っている?』

「そそそ、そうねぇ。今のところ恋人未満教え子以上かな。凄く頑張っているのが分かるだけに、応えたいとは思うけど……」

『ズルイ考えだな。逃げずにはっきりしろ。完全に気がないなら早い方がいい。気があるなら、やはり早い方がいい。腹をくくれ』

 ……なんすか、このスパルタ塾。

「そんな白か黒かで決められる問題?」

『決めねばならんのだ。それが恋愛だ。だから、時に頭痛がするほど悩み、考え、泣く。しかし、最後に出る結果は1つしかない。頑張っているから応えたい? 甘えた事を考えをするな。坊主からすればママゴトではないのだぞ。真剣な話しだ』

「……」

 なんか、ボコボコな私です。スパロー先生怖いです。

『まあ、今はまだスタートラインにすら立っていない。悩め、考え、思い切り泣け。そして、可及的速やかに答えを出せ。それがお互いのためだ。そして、決めたらぶれるな』

「あれ、どうしました?」

 馬鹿野郎!! タータが庭にやってきた。

「なななな、何でもない!!」

 慌ててタータに言う。気がついたら、スパロー様はもう帰ってしまった。全く……。

「そうですか。なにか、今にも倒れそうな顔ですが……」

 はい、倒れさせて下さい。

「ゴメン。今日は朝食いいわ。頭痛い……」

 一気に情報を投入されたため、私は激しい頭痛に見舞われていた。

「分かりました。寝室まで付き添います」

「アリガト……あのさ、変なこと聞くけど、私のこと好き?」

 タータがポカンとした顔になった。

「当たり前じゃないですか。どうしたのですか?」

「いや、なんでもない」


 タータを何とか家まで送ると、私は1人になった。夕刻まで彼は来ない。

「だぁぁぁ、可及的速やかにってどーすりゃいいのさ!!」

 あの馬鹿のせいで、ここまで悩む事になるとは……。そして、スパローの馬鹿!! なんか泣けてきたぞ。って、ホントに涙が。これは頭痛のせいだ。うん!!

「あー、イライラする。こういうときは散歩!!」

 私は家を出た。飛行機で散歩するわけではない。私は広大な庭の真ん中に立つと、杖を片手に呪文を唱えた。庭全体に魔方陣が描かれ、巨大なドラゴンが現れた。神竜バハムート。その吐息は街1つくらい一瞬で消し去る。巨大な力をもった竜の王だ。

 私の杖の動きに合わせ、遠くの山に照準を合わせる。そして……発射!!

 轟音ととも発射されたバハムートの吐息は、山を丸ごと消滅させた。たったの一撃で……。あー、ちょっとだけスッキリ。

「ありがと」

 私はバハムートを元に戻した。全く意味の無い行為だ。いや、むしろやってはいけないことだ。しかし……だからなに!!

「はぁ、全く面倒くさいわね」

 こうして、私は夕刻までにコンディションを整えるべく、寝室に戻ってしばしの休眠に入ったのだった。

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