第6話 タータの城作り
午後になって立ち直り、時間が遅れた「散歩」をしていた。
「フフフフンフンフンフン~ フフフフフフ~ フーフフーフフーフ~♪」
私は飛行機の操縦桿を握りながら、ひたすら鼻歌を歌っていた。
『なんだ、今日は上機嫌だな』
隣を飛ぶスパローが不思議そうに聞いて来た。
「まあね。たまにはいいことがあるってもんさね」
その「いい事」であるタータは、今ここにはいない。夜になればまた来ると分かっているので1度家に帰したのだ。思わず取り乱しはしたが、本気で自分を好いてくれる男の子にファーストキスを差し出せたのだ。まだ戸惑ってはいるが、悪い気はしないってもんさね。
『……なるほどな。あの少年とか。まあ、人の恋路に首を突っ込む気はないが、お前もまだまだ子供だな』
……うわ、しまった。思念会話の回路開けっ放し!!
「こら、勝手に覗くな!!」
私は慌てたがもう遅かった。
『操縦に集中しろ。危ないぞ』
……くっそ、そのうち撃ち落としてやる!!
「分かってるわよ!!」
まあ、そんなこんなでいつもの「散歩海域」に差し掛かると、いつも通り追いかけっこしたり曲芸飛行したり、好き勝手遊び回る。眼下の海面は漁場でも航路でもないので、暴れ回っても問題はない。
そんなこんなで散歩も終わった夕刻。飛行機を格納庫にしまった頃。タータが家にやってきた。何やらリアカーを引き、木材やら何やらを持ち込んできた。
「なにそれ?」
今度はなにするつもりだ?
「キッチンを改装するんです。今も悪くないのですが、もう少し機能的で使いやすくします!!」
……こら、他人の家のキッチンだぞ!!
「全く、そんなの魔法でいくらでも作り替えられるわよ。教えてもらえれば……」
とりあえずそう言ってみたのだが……。
「いえ、自分でやるから意味があるんです。使い勝手とか確かめながらやりたいですから」 タータの癖1つ発見。凝り性。
「まぁ、好きにやってちょうだい。もっと広さが必要なら言ってね」
「広さは十分です。大体の寸法で切ってきたので、これを組み立てて……」
あとは任せよう。そのまま任せて、奥の書斎に引っ込んだ。読むのは恋愛本ではなく、小難しい召喚術に関するものだ。
攻撃にも防御にも回復にも補助的にも使える召喚術だが、今ひとつ人気が出ないのは、そもそも難しく呪文の詠唱も長く即応性に欠けるから。これだ。しかし、これは努力次第でどうにかなる。魔法使いであれば、その辺りは努力でなんとかなるはず。自分自身でも時短詠唱をいくつも開発した。これならば実用に十分足りるはずである。そういうのを纏めて教えるのが使命……だと思っている。でなければ師匠の意味がない。
3時間ほど経った頃だろうか。本から目を離して書斎から出た。
「……」
もう工事は終わっていたらしい。真新しいキッチンという名の戦場で、タータが恐ろしい手つきで料理を作っていた。見た目5才のくせに顔つきが完璧にプロの料理人。こちらに気がつく様子すらない。なんか、涼しい顔でフランベとかしているし。
「……もう一回書斎に行こう。あー、読書楽しいなぁ」
結局、タータが呼びに来たのは1時間後だった。
「何というか、相変わらずのクォリティーね」
今日は肉料理がメインのようだ。タータの料理能力は、もはや店が出せるレベルだ。
「今日はいい鴨が入ったので……」
なにか料理の説明に入ったのだが、何を言っているのか分からない。そりゃあーた、タータが料理してくれる前は、固いパンと具が入っていないスープしか飲んでいなかったのだ。小難しいことを言われても分からん。
「……では、頂きます」
「頂きます!!」
こうして晩餐が開始された。不味いわけがない。
「タータ、ずっと気になっていたんだけど、どこでこの料理を……」
「お父さんです。凝り性でして……」
……ますます謎なお父さんねぇ。
「凝り性か……遺伝したわね」
「えっ?」
タータが不思議そうな顔をした。初めて気がついたが、小首をかしげた彼もなんか可愛い。
「なんでもないわ」
こうして、晩餐を終えサロンで語りあった後に寝ようとしたのだが……」
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
しばらくモジモジしていたタータだったが、やがてはっきりこちらの目を見た。
「一緒の部屋で寝たらダメですか? 同じベッドとは言いません。床でもいいですから!!」
……はぃ? 今なんて言った? タータの言葉を脳が処理するまで、しばしの時間が掛かった。
「あのねぇ、なに言ってるか分かってる?」
その場にしゃがみ込み、タータの目を見て言った。
「もちろん、分かっているつもりです。でも、先生のそばにいたくて……」
うー、重いぞタータ。
「まあ、別に構わないけど、あなたはソファね」
ついに領土に攻め込んできたタータに対し、ある程度譲歩した案を提示してみた。
「あ、ありがとうございます……」
タータは寝室のソファに横になった。ベッドに横になり、なんとはなしに子守歌を口ずさむ。
「アル セムディ エトワト~ ライラクディエリシニ~♪」
今度はイスタル王国の曲だ。なんであっちゃこっちゃ詳しいかというと、昔は色々冒険したのだ。帰ってこい20代。
こうして、深い眠りの淵に落ちていったのだった。数歩先にタータが寝息を立てている事など忘れて……。
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