《第8話》1度目のエピローグ

 リハビリをしながらの設計図の打ち合わせは、連藤のサポートもあってか、とてもスムーズだった。

 しっかり店のリノベーションも行い、以前のカフェよりもより洗練されたお店となったと思う。

 昔の印象はそのままに、お客様にさらにくつろいでもらえるカフェにしたつもりだ。

 そして何より厨房の器具もより良いものに取り替えられた。

 快適なのは言うまでもない。


 一番の快適は、食洗機!!


 以前は両親の引き継ぎだったため、食洗機などなく、自分で洗うしかなかった。

 が!

 食洗機は自動で動く。

 しっかり動く!

 なんて素晴らしいことだろう。

 お客様が多少多くなっても問題ないよう、大きめの食洗機の導入がされた。

 家庭用の延長ではあるが、とても捗っている。



 唯一、変わらなかったところもある。



 扉横の大きな窓だ。



 この大きな窓は、大好きなもの。

 よく学校から帰るときに、窓から両親の働く姿が見えた。

 それはとても誇りであったし、二人からこぼれる笑顔がたまらなく好きだった。


 今は、大好きな人たちが来るのが見える。



 だが、ようやく気付いた。



 二人が笑っていたのは仕事が楽しくて、ばかりではなかった。




 私を見つけて微笑んでいたのだ。




 今は私がその笑顔をこぼす側になれるとは。

 悲劇の奇跡は、喜びも与えてくれるようだ。





「ね、連藤さん、」


「なんだ?」


「なんで日曜日、ここに入るんですか?」


「手にまだ負担かけられないだろ」


「リハビリもすみましたので、自分の家で好きな料理を好きなように作ってくれていいんですよ?」


「なんでそんなに棘のある声を出すんだ」


「あんた目当ての客が、やたらと増えてるからでしょっ!

 おかげで回転率悪くてしょーがないんだけど」


「そんな視線は感じないぞ?」


「あんたの目は節穴かっ?

 なんで私のみたい方向は気付けるのに、こんな熱視線に気付けないの?


 バカ? バカでしょ? 本当バカだよね」


「ナポリタンできたぞ」



「はい、ナポリタンのお客様〜」



 カウンター奥に厨房を設けたため、その中でのやり取りはそうそう漏れてはこない。

 が、このやり取りを知っている彼の友人たちは心底驚いている。

 あれほど貶されている連藤を見たのは初めてだからだ。



 いつか三井か尋ねた。


「あんな言われ方して、イライラしねーのかよ?」


「なんだろな、彼女に言われると苛立たないんだ。

 むしろそのやり取りが面白く感じる。


 だからか、ついやめられなくて通ってしまう。

 自分でもどうかしてると思う」


 笑う連藤に笑い返したが、



 あ、Mなんだな。



 そう結論づいた。





 悲劇の奇跡はこれからも続くかもしれない。

 もしかしたら三度目の正直で起こらないかもしれない。

 ただそれを知っているのは、これからの時間だけだ。


 それまでは少しでも楽しく、

 そして、悲劇の奇跡の欠片を幸せに感じられるよう、過ごしていきたいと思う。




 連藤と莉子の目が合った。


 思わず二人は笑顔になる。




 これが以心伝心というやつか。



 今、すごく幸せだ___

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