彪 あやかし

 喫茶店で待つこと30分、僕はレモネードを飲んで待っていた。

 なぜか、ノスタルジックなレモネードというメニューに惹かれたのだ。

 喫茶店に似合うもの、「ナポリタン」と「レモネード」だ。

 食事をしながらというのは、気が牽けるので、レモネードだけ頼んで今、飲み干そうとしている。

「お待たせしました」

「あぁ…どうぞ」

「失礼します」

「いえ…何か飲み物でも…すいません」

 僕は店員さんを呼んだ。

「あっ…じゃあ…クリームソーダお願いします」

「いいですね…僕も同じもの、クリームソーダ2つお願いします」


 運ばれてきたクリームソーダのアイスを溶かしながら、彼女は話だした。

「あまり人と親しく話す人では無かったと思います…」

 日本に来て、何年か経っていたようですが、まだ日本語を流暢に話せないようで、フロアから厨房の下働きに異動させたと聞きました。

 娘さんがいたと聞いてます。

 学年は違いますが、私の息子と同じ小学校だったのですが、娘さんのほうは特にイジメられてたという話は無かったです、娘さんのほうが日本語に慣れていたのかもしれませんが、カンフーを習っているとかで、それも関係があったかもしれません。

「『炎明エンメイ』 はカンフーを教えてたんですか?」

「えぇ、週に1・2度、市民会館で教えてましたよ、息子も一時期通ってましたから」

 だけど、たまにガラの悪い人達がウロウロしていて…辞めさせたんです。

 姿を見なくなったから国に帰られてんだと思ってましたが…。

「あ~、その事件っていうのは?」

「あぁ…そうですね…その話でしたね」

 姿を消す、何か月か前に、同僚を仕事中に包丁で切り付けたことがあったんです。

 傷自体は大したことはなかったそうですけど…警察が来て、ちょっとした事件になったんです。

 先代の支配人は公にしたくないということで、お金で解決したようですけど…なんかヤクザ関係の人が被害者を脅したとか噂がありました。

「あの…包丁だったんですか?」

「えぇ…そう聞きました」

「ナイフではなくて?」

「ナイフですか…いや…包丁だと聞きましたが」

 僕は、彼女にバタフライナイフの写真を見せた。

 彼女は首を傾げていたが、ナイフでは無かったと言う。

「このバタフライ…ナイフというのですか…このナイフかどうか解りませんけど…コレ、手でカシャカシャと回すナイフですよね…そのナイフを持っていた男は知ってます」

「…『片山 崇』という当時20歳くらいの男です」

片山かたやまたかし…ですか」

「えぇ…『炎明エンメイ』さんとよく一緒にいましたし…昼は店員として働いているんですけど…なんか取り立て屋まがいのバイトもしているとかで、怖い人でしたよ」


 彼女から聞けたのは、こんなところだ。

 ひとつ気になったのはだ。

 厨房だから包丁と言うのは自然だと思うが…あの刑事はナイフと言っていたのだ。

 このナイフは、どこで包丁に変わったのだろう。

 置いてきたバタフライナイフは、いつの押収品なんだ…20年以上も保管されたいたとは思えないんだが…。


 僕は、そのまま夜に東京へ戻った。

 レポートに報告をまとめ、翌日提出した。


「やはり、このナイフは『炎明エンメイ』のナイフだったということか…」

「そうなりますね」

「そうか…『片山 崇』が『炎明エンメイ』と繋がるとはね…運命というやつなのかな、しかし…調べすぎたな…『片山 崇』までたどり着くとはね…刑事の方が向いていたのかもしれないね彼は…」

「どうされますか」

「うん…これ以上調べられても困るんでね…まぁ『墓場』でいいだろう…」

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