Paradise Lost

uno(1)

 部下を失った…。


『㈱ I 電気連続銃殺事件捜査本部』に回された。

 所轄内で起きた連続銃殺事件。

 俺が刑事として最後に取り扱う事件になるだろう。

 経験の浅いコイツの指導係も兼ねて、捜査に加わることになったわけだが…まぁ…すぐ終わる事件ヤマだ。

 証拠が有りすぎる、そして動機が怨恨とくれば…容疑者の絞り出しは数日で終わる。


 教えることも無いような事件ヤマ

 被害者には気の毒だが、簡単な事件だったはずだ。


 しかし、一向に逮捕状が下りない。

 それどころか、事情聴取すらできない。

 現場はイラだっていた。

 ベテランの連中は、悟っていた。

 圧力が掛かっているのだと…。

 だが、コイツの様な若造には、それが解らない、いや、理解できないといったほうがいい。

 コイツはバカじゃない。

 利口ではあるが…青いんだ。

 捜査どころか、接触すら制限された、事実上、野放しというわけだ。

 この連続射殺魔を。

 この写真を見てもそう言えるのか?上層部に聞いてみたくなる。

 どれだけの恨みを込めれば、こんなことが出来る?

 すでに人の所業じゃない。

 初見で解った。

 プロの仕業じゃない…だからこそ厄介だ。

 定年も間近に迫っているのに、こんな事件に駆り出されるとは、ツキとは無縁の人生だと神に文句も言いたくなる。

 大人しく、波風立てずに、やり過ごしたいのに…組まされた相手は血の気の多い若造だし。

 本当に困ったもんだ。


 気持ちはわかるさ…。

 こんな被害者の写真を見せられて、警察官なら怒りが込み上げて当たり前だ。

 現場に足を運んだ捜査員なら尚更だろう。

 警察官というものは、現場から遠ざかると視えなくなるものが増えるようだ。

『木を見て森を見ず』

 よく現場の捜査員を卑下するように使われる。

 だが、俺達、現場から言わせれば

『楽観主義が現実に代わる場所が会議室』ってことだ。


『死』をグロスで捉える会議室と人1人が目の前で転がっている現場では『数字』の価値が違うということだ。

 まだ2人じゃないか…また1人増えた…捉え方が代わっちまうんだ。


 こいつは、この若いのは…止めようとしている、3人目は出させまいと…。

 だが…老練な連中は…もう一回早くやらないかな、そうすりゃ事が早く進むんだがな…が本音だ。


 警察官なんて、胃薬みたいなもんだ。

 痛くならなきゃ、その存在に価値は無い。

 在ることすら忘れちまう。

 でも痛みだすと、効いて当たり前…効果が無けりゃ怒鳴られる。

 痛む前にすることがあるはずなんだが…。


 この捜査本部には正義が渦巻いている。

 正義しかないと言い切れる。


 だが…正義には色んなカタチと、様々な色が在るだけだ。


 透明に近い青、コイツの色はまだ、何色にでも染まる。


 だけど…警察官ってのは…もう透明には戻れないもんだ。

 何色であろうとも、年月を重ねれば重ねただけ、黒に近づいて行くんだ。


 案外、犯人のほうが綺麗に映ることだって…。

 なんにせ…犯人ホシってくらいだからな…。


 タバコに火を着け、夜空を見上げて星を見る。

会議室ココ…禁煙ですよ…」


 まったく…やりにくい時代になったもんだ。

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