due(2)

 なんの動きも無いまま時間だけが過ぎて行った。

 捜査、捜査、とウルサイ、コイツに尻を叩かれて、まぁ聞き込みの真似事をしてみる。

『片山 崇』の名は出せない。

 向こうから出るのを待つのだ。

 それをコイツは…。

 禁止されたはずの写真を持ち出しやがった。

「この事件ヤマは、お宮迷宮入りになる」

 何度、言っても聞きやしない。

「まだ、そんな命令は出てません」


『片山 崇』の顔写真なんて持ちだしたことがバレれば、俺の定年だって危ういというのに…。


 しかし、この『片山 崇』という男は、驚くほど写真が無かった。

 小学校の頃から…今までずっと…。

 目立たない性格ではなかったようだが…。

 子供の頃から、人付き合いが浅いというか…皆知ってるけど…何も知らない。

 奇妙なというより不気味な男だ。


 経歴に毛の生えた程度の情報しか得られない。

 幽霊の足跡を辿るような捜査が続いた。

 幽霊と違うのは、『片山 崇』という男は虚構でも都市伝説でもない、実在している人間だということだ。

 ただひとつ…掴めないという点で幽霊と変わらない。


 俺は、事件には興味が無かった。

 だが、『片山 崇』という男には興味がでてきた。

 コイツとはベクトルは違えど、たどり着くべき場所だけは同じだったのかもしれない。

 ただ、コイツの進んだ途は途中で途絶えていたというだけ。

 進むべき途を間違っただけ…警察官として間違っただけ。


 職の経歴を辿って行くうちに、俺達はN県S市に来ていた。

 所轄の警察に挨拶して、それとなく『片山 崇』のことを聞いてみる。

 S市での『片山 崇』は今までのソレとは大きく異なった。

 19・20歳くらいの頃、奴はここで暮らしていた。

 ホームセンターの従業員として、幾度かケンカで警察の厄介になっていたそうだ。


 そうだ…というのは『片山 崇』に関する資料は、すでに本庁が回収していた後だったからだ。

 当時を知る警察官から話を聞けただけ。

 良い評判は聞かないが、ヤクザとの繋がりもあり、取り立て屋のようなこともしていたらしい。

 ケンカっ早いというより、目立つからケンカを売られる側、それゆえに1晩泊まる程度で済んでいたらしいのだが、本人が怪我をすることは、ほとんどなかったようだ。

「それなりに強いということですか?」

「まぁそれもあるんでしょうがね…カンフーを習っていたようですね」

「カンフーですか?少林寺みたいな」

「いや…当時、教室があったんですよ、中国人が教えてましてね…えっと確か…資料が…」

「資料?」

「えぇ、その中国人も傷害で一度ね…そのときの資料が…」


 拳銃持ってカンフーとは…映画の殺し屋だな…まるで。

 実像が掴めない男だ。

 警察官の証言だけでは憶測混じりが多く、参考程度にしかならない。


「お待たせして…資料が無いんですよ、なんだか一緒に持って行かれたようですね」

「『片山 崇』の資料と一緒にですか?」

「そのようです」


 警察を出て、定食屋で飯を食った。

「関係あるんでしょうね…『片山 崇』と、その中国人、名前なんでしたっけ」

「『炎明エンメイ』だ…こっちも、なかなかの男だな…」

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