tre(3)

「関係あると思うか?」

「……解りません……」

「正直だな」

「カンだけで、動くのは違うと思います」

「そうだな…その通りだ…だが、刑事のカンってのはあるもんだ」

「関係あると思ってるんですか?」

「直接ではないにしても…ってレベルでな」

「なんだったんでしょうね…その中国人が起こした傷害沙汰って?」

「『炎明エンメイ』だ、刑事なら名前は覚えろ」

「はい、すいません」

「ナイフで斬りつけたんだって言ってたな…」

「えぇ…でも示談で済ませたとか…」

「あぁ…当時の関係者当たるのか?」

「そうしましょう、『片山 崇』にも繋がるかも知れませんし」

「じゃあ…ホテルからだな」


 傷害の被害者である男の行方から当たってみることにした。

 被害者の男は、S市内で別の職に就いていた。


「『炎明エンメイ』のことですか…あんまり思い出したくないんですけどね」

「大したことじゃないんですよ、当時のことを伺いたいだけで…これが記録にの頃様な事はありませんから」

「そうですか…」

 あまり、話したくないのは、表情で解る。


 もともと『炎明エンメイ』は、人付き合いが良くなかったようだ。

 日本語も、まだ完全に理解できたわけではなく、この日も食材を聞き間違えて、用意してしまったそうだ。

 そのことでシェフに咎められ、この男はそのことで『炎明エンメイ』をからかった。

 それで斬りつけられたと…。 

「いきなり、ナイフですからねー、あのカシャカシャ回すナイフでシュッと腕を斬られたんです」

 と袖をまくって、傷を見せた。

「カシャカシャ回すナイフ?」

「えぇ…なんて言いましたっけ?こう…」

 被害者の男は手をクルクルと回す。

「バタフライナイフ…」

「あぁ…そんな名前のナイフです」

「持ち歩いてたってことですよね」

「まぁそうですけど…造ってたんですよ、彼、自分で」

「自作のナイフですか?」

「えぇ…中国でも売ってたようですよ」


 それ以上、大した話は聞けなかったのだが、最後に時効ですよねと念押しされて、口を開いた。

「脅されたんです…ヤクザにね」

「事件のことをですか?」

「えぇ…包丁で斬られたと言えってね…多額の示談金も貰ったんで、それだけならと…怖かったし…ヤクザの後ろでナイフ回してた男が特にね、従わなければって感じで…」


 つまりナイフで斬りつけられたが、警察には包丁でと言ったということだ。

 事件となれば偽証罪かもしれないが…示談であれば大きな問題じゃない。


「ナイフだとマズイ事情があった…」

「いや…それ以前にヤクザと繋がりがあったってことだ」

「なんで、あの警察官は包丁だと言わなかったんでしょう?」

「調書では包丁になっている、だが、あの警察官は現場にいたんだ、だから現場で見たままナイフとして記憶している」

「なぜでしょうね?今ならともかく、当時は今ほどうるさくないでしょ銃刀法も」

「あぁ…ナイフから繋がる不都合な事実があったんだろうな」


 俺は、なんとなくだが…被害者が言っていた、脅しをかけてきたヤクザの後ろでナイフを回していた男が『片山 崇』であったような気がしてならなかった。


 ただの刑事のカンってやつでしかないが…。

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