quattro(4)

 この中国人『炎明エンメイ』は、どこでナイフを造っていたんだろう。

 趣味だとしても、工房的な設備は必要なんじゃないだろうか。

 当時、彼はアパートで娘と2人暮らし。

 保証人は…組の関係者なんだろうか。


 なにか引っ掛かる。

『片山 崇』とは外れた件ではあるが、なにか引っ掛かる。

 S市に同時期に住んでいて、面識もあった。

 無関係ではないはずだ。

 現在の『片山 崇』と『炎明エンメイ』を繋ぐものがあるということだ。

 だから同時期に資料を持ち出した奴がいる。

 捜査を、させたくない奴がいる…上層部に…。

お宮迷宮入り』は決まっている。

 それくらい俺には解る。

 だが、コイツは…この馬鹿みたいに張り切っているコイツの気持ちはどうなる。

 凶行を止めんと、走り回っているコイツのような捜査員の気持ちは…警察官としての誇りは、正義は、どこへ向かえばいい。

「ナイフ…だけでも当たってみるか?」

「はい‼」


 今思えば…この時にコイツの、つまらない正義感なんぞに充てられなければ良かったんだ。

 そうすれば…きっと…。

 2択を迫れた時に、どちらかが当たりばかりじゃないんだ。

 どっちを選んでも後悔しか残らないこともある。

 だが…命を犠牲にしなければならないのであれば…それが解っていれば…。


炎明エンメイ』が当時、住んでいた借家は壊されていた。

 ただ、土地が売りに出されているだけの空き地に変わっていた。

 ここに工房があったなんて話は聞けず、早々に暗礁に乗り上げてしまった。

 販売先も不明、インターネットが今ほど普及してない頃だ、ネット販売とは考え難い。

 手売りで、買い取ってくれる店なんて、限られているが…。

 やくざと繋がりがあったというが、当時と勢力図が変わっている。

 ナイフをやくざが大金を払って、もみ消したという事実、これは何かがある。

 彼らは『炎明エンメイ』を庇ったわけではない。

 言うなれば、『炎明エンメイ』に価値はないのだ。

 ナイフが彼らにとって隠したい何かに繋がっているのだ。


「バタフライナイフって、どうやって造るんですかね?」

「さあな…構造は単純そうだがな」

「はぁ…『炎明エンメイ』って中国人でしょ…やくざって日本のやくざだったんでしょうかね?ほら、チャイニーズマフィアとか」

「……うん…その線もあるのか……むしろ、その線が強いのかもな」


 だが、こんな田舎の温泉街にチャイニーズマフィアなどいたわけもない。

 とすると、日本のやくざとチャイニーズマフィアを繋ぐものは…クスリと銃。

 ナイフは…なんなんだ。


 バタフライナイフ…。

「明日。もう一度、あの捜査官を訪ねるぞ、お前は、あの被害者のとこに行け」

「何を改めて聞くんです?」

「ハンドメイドのナイフって、どんな形してたんだろうな…」

「形?」

「そうだ…押収されてマズイものなんだろ…なにか特徴があったんじゃないかと思ってな…」

「どういうことですか?どんなナイフだったか聞いて来ればいいんですか?」

「あぁ…これはカンなんだがな…何かの証だったんじゃないだろうか…身分証みたいな」

「ナイフがですか?」

「あぁ…ナイフがだ…たかがナイフ…だからこそ意味があったんじゃないか」

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