彩 あやかし

 翌朝、ローカル線に揺られて、S市に移動した。

 最寄駅から、さらに1つ進めば、新幹線で東京に戻れるのは都合が良かった。

 電車は、サラリーマンより学生が多く、この地域がマイカー通勤が主流なのだと感じる。

 田舎の人は、都会は金が掛かると言うが、田舎の方が金が掛かるような気がする。

 なぜ、不便な田舎暮らしを選ぶのだろう…。

 職も選べず、給与水準も低い、独立を考えない以上は会社務めにメリットってあるのだろうか?


 しかし、自分が学生の頃とは、随分変わったものだ。

 セーラー服なんて着ている高校生はいない、皆ブレザーに変わった。

 学生服なんて中学生までなんだ。

 都会では、幼稚園から制服だもんな…詰襟なんて、そのうち無くなるのかもしれない。

 今、セーラー服なんて、コスプレか風俗しか需要がないのかもしれない。


 そう思うと、今見ている光景が、とてもノスタルジックに思える。


 最寄駅からタクシーでホテルへ移動する。

 駅前といっても商店街が100mほどあっただけで、後は田んぼか、畑が続く。

 ここは日本なんだろうか…そんな気持ちになって気が滅入る。


 ホテルに着いて、支配人を呼んでもらった。

 部屋に案内されて、待つこと数分、支配人が顔を出した。

 まだ若い青年だった。

「昔、務めていた従業員のことだそうで…」

「えぇ…突然すみません」

「いえ…しかし、私がお話できることは何もありませんが、当時の資料くらいしか、それも1度は警察に提出したものばかりで、今更、新しいものは何も…、生憎、父が他界しておりましてね、当時から働いている従業員も何人かはおりますから、必要であれば…」

「ちょっと…警察にとおっしゃいましたか?」

「えぇ…『炎明エンメイ』 のことですよね?」

「そうですけど…」

「警察の方ですよね?」

「えっ…いや…まぁ…そうです」

 思わず、肯定してしまった。

 あまりにも当たり前に警察だと言われたもので…。

「彼を知る従業員の話では、無口で当時は日本語もよく喋れなかったようで、時折、同僚とトラブルを起こすこともあったそうですが、基本的には真面目な人間だったと…急に娘さんと姿を消してしまったそうですが」

「彼の資料を見せて頂けますか?」

「えぇ…用意しておきました…ご自由にどうぞ、私は仕事に戻ります、この部屋にいてもらって構いませんから、何か御用であれば、内線で事務所に言づけてください」

「すいません、ありがとうございます」


 資料と言っても、履歴書とか給与明細などがあるだけであった。

 アルバイトとして、数年間、勤務していたようだ。

 給料は…安い。

 勤務表も残っていたが、姿を消す半年前からは欠勤が多い。


 あまり役に立ちそうな資料ではない。

 資料を片づけていると、部屋にお茶が運ばれてきた。

 年配の女性、事務員だろうか。

 履歴書に目を落とすと、ため息をついて

「『炎明エンメイ』さん ですか…ちょっと怖い感じの人でしたね~」

「知っているんですか?」

「えぇ…私が勤め始めた頃に少しだけ…」

「聞かせていただけませんか…その当時のこと、何でもいいんで…」

「仕事中ですから…」

「待ちます! あっいえ…その仕事終わるまで、だから…」

「……えぇ…あの時の事くらいしかお話できませんけど…」

「あの時の事…それで構いませんから、お願いします」

「はぁ…18時頃にはあがりますが…いいですか?」

「はい、あっじゃあ…駅前にあった喫茶店で待ってます」

「……解りました」

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