怪 あやかし

 僕は店から『炎明エンメイ』の自宅へ電話してみた。

 当然のように、現在使われておりません。

 そして勤務先、こちらは2つ隣の市にあるホテルで、現在も営業していた。

 僕は、翌日アポを取り付けて、その日はN市でホテルをとった。


 ここまで来た意味くらいはあったと思う。

 なんだか、刑事にもなったような気分で楽しくなってきた。

 警察手帳でも出して、ドラマのように聞き込みってやつをしてみたい。

 僕らの普段の仕事は、部屋に、こもりっぱなしだから外勤ってのに憧れもあるのだ。

 現場の苦労なんて解らない内勤の憧れってものだ。

 警察官になるって人間が刑事に憧れないわけがない…と僕は思っている。

 実際の刑事は、大変だし、ドラマみたいな刑事がいれば、まぁ懲戒解雇だろうけど。

 それでも子供の頃には憧れたものだ。

 意味の無い尾行ごっこや、捜査ごっこもした。

 モデルガンも持ってたし、一度くらいは「動くな!! 撃つぞ!!」なんて言ってみたい。

 結局、警察官にはなれたものの、鑑識班なわけだが…。

 重要ではあるのだ、鑑識も、それなりの誇りも持っている。

 憧れは憧れ…現実は…現実だ。


 僕は、久しぶりの県外出張ってやつを満喫していた。

 刑事の真似事も出来てるし、手ごたえも感じる。


 そんな気分のまま、デリヘルを利用した。

 部屋のパソコンからビジネスホテルに来てくれる店で、今からすぐ来れるスレンダーな嬢とだけ伝えて待つこと20分、スマホに非通知で着信が入った。

「……の『コトネ』ですけど…何号室ですか?」

 鼻に掛かったようなヤル気の無い喋り方…ハズレを引いたかと思った。

 テンション低めに部屋番号を伝えて、鍵を外す。

 ノックされて、ドアを開けると…想像以上の綺麗な嬢だった。

「ウチ…チェンジ無いんですけど…」

「あぁ…いいよ…キミで」

 料金を渡して、少し話す。

 26歳で風俗歴は長いらしい。

 そしてやたらプレイにNGが多かった。

 フリーで回されるような嬢だ、期待はしないほうがいい。

 容姿がいいぶん、残念ではあるが…考え方を変えれば、容姿はいいのだ。

 容姿だけは…。

「やたらNG多いけど…彼氏とかいるの?」

「……彼氏かどうか…解らないけど…一応」

「へぇ…どんな人?」

「山ちゃんって呼んでる~。18くらい上で…今、無職」

「無職?40過ぎで…そりゃダメ人間だろ」

「そんなことない…ちょっと人付き合いが苦手なだけ、あんまり本音で喋らないけど…優しいって思うもん…アタシみたいな風俗嬢にも」

「ただ、ヤリたいだけだろ、そんな男は」

「違うもん、山ちゃん、SEXほとんどしてこない。アタシSEX嫌いだし」


 機嫌を損ねたようで、サービスは悪かった。

 まぁいい。

 今夜はいい気分で眠れそうだ。

 やっぱり刑事になりたかったな…。

 鑑識なんて面白くないのかもしれないな。

 犯人を追う刑事こそ、警察官の姿だよな。


 なんで僕は、刑事じゃなくて鑑識なんて選んだんだろう…。

 手応えが欲しいな…少しだけ…もう少しだけ、調べてみようかな、このバタフライナイフから繋がる限界まで…。

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