綾 あやかし
古美術商は駅前から歩いて10分ほどの場所にあった。
商売を続けていてくれたのはラッキーだった。
とても景気が良さそうとは思えない佇まい。
僕は、見た目以上に重い音を立てる引き戸を開けて、1歩踏み込む。
「すいませ~ん」
店内に人影は無く、当たり前のように主人も見当たらない。
時間を間違ったかな?と腕時計を見ると、約束の10分前…。
店だから、早いとか、遅いとか気にしなかったのだが、少し早めだったのかもしれない。
店内にある、売り物をうっかり落とさないように気を付けながら見て回る。
見た目…価値のあるものは無さそうだが、素人目に判断できないのが骨董品の怖いところだ。
関係は無いのだろうが、鑑識が贋作掴まされたのでは…面子にも関わる。
壊して買わされた…なんて笑い話にもならない。
にしても…こんなホコリを被ったツボが8万とか…何を基準に決めてるのだか…。
「ん…いらっしゃい…」
奥から、店主が顔を出した。
いかにも…って感じの骨董品屋の主らしい店主だった。
「あぁ…勝手に、すいません、あの電話で…」
「あぁあぁ…東京の…あのナイフね」
「早速なんですけど…コレなんですが」
「ん…なんだ写真か…覚えてるよ、20年以上前だと思うけどね」
「ホントですか?」
店主の話によると…。
23年前に3本のナイフを持ちこんだ中国人がいた。
ハンドメイドではあったが、丁寧に造られたナイフを買い取った。
外から見える場所に陳列すると、ロシア人が買いたいと入ってきたのだが、金が無いという。
セットで98,000円だったのだが…1本だけ35,000円で売ったのだそうだ。
残りの2本は、バラバラに売れて行った。
当時、バタフライナイフに規制は掛かっておらず、登録の必要は無い。
店主も、中国人が持ち込んで、ロシア人が買っていったから覚えていたのだ。
時期や価格は、古い台帳に残っていた記録から拾い出したのだ。
中国人が造ったハンドメイドのバタフライナイフということだけは解った。
「いや~すぐ売れたから、また造ってくれないかと電話したんだけどね…」
「えっ?」
「ん…造ってくれなかったんだよ」
「いや…そうじゃなくて、連絡先、知ってるんですか?」
「当時のね…一応、買い取ったときに名前と一緒に住所と電話番号くらい控えるだろ…」
「それ、教えてください」
「ん~、時間掛かるかもよ…昔の履歴当たらなきゃだしさ…」
店主は明らかに面倒くさいからやりたくないという顔をしていた。
「手伝いますから…お願いします」
2時間ほど、古い履歴をひっくり返して見つけた。
『
名前・住所・勤務先と自宅の電話番号が残っていた。
買い取り記録には…バタフライナイフ(自作)3本、色 赤・青・緑となっていた。
「赤・青・緑…木目は無いんだ…」
「そうみたいだな…デザインは、同じだと思うけどな」
「そうなのか…このバタフライナイフを造ったのは。この『
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