sechs(6)

 月曜日から金曜日まで、7:30に宿舎からバスが出る、窓は真っ黒なスモークに覆われ外を伺うことは出来ない。

 俺を入れて5人乗り込み、私語は厳禁だ。

 間違いなく、録画・録音されている、そのことを皆、知っている。

 こいつらも、きっと公安の出身、何らかの事情でココに送られた訳あり。


 20分ほど揺られると、殺風景なビルの入り口でIDを通すと、3畳ほどの小部屋に各自、入室させられる。

 何も無い部屋、持ちこみは制限されているが、本くらいなら問題ないようだ。

 8:30に朝食が運ばれ、12:00に昼食、17:15に勤務終了となり、18:00には宿舎に送られる。

 19:00に夕食が自室に運ばれ、1日が終わる。


 事件資料の入力と、その後の破棄が仕事。

 資料は断片的に全容を把握できないように分配されている。

 だから5名必要なのだ。

 1人が知り得る内容は、全容の1/5、それも断片的にだ。

 よく出来ている。

 官僚とは、こういうことを考えることには長けているのだろう。


 ここは何処なんだろう…どこかの過疎地ということだけは解るのだが…。

 宿舎は高層階にあり、この部屋からエレベーター、出入口まで一本道だ。

 どこかの山に建てられた、隔離施設。

 民間施設ではない、あからさまに隔離を目的をしている構造。

 通路には窓もなく、横に狭い、細長い造り。

 横の繋がりを遮断し、出来るだけ他人と接触させない造り。


 牢獄と大差ない。

 警察官のはずだよな…まだ。

 自分が囚人にでもなった錯覚を覚える。

 俺は、囚人じゃない。

 俺の終着点はココじゃない、自分の終着点は自分で決める。

 ここは、乗換駅に過ぎない。


 ココを抜け出す。

 ここの警備員は銃を所持していない。

 装備しているのは、テーザー銃。

 集団での逃走を考えてない、対象を1人として考えている。

 実際に、この環境下で集団逃走など不可能だろうし、ソレで充分なんだろう。

 抜け出すには、連れ出してもらう必要があるということだ。

 ここは『墓場』 死体には困らない。


 そして、誰が死んでも困らない。

 部屋に入り、階下を見下ろす、飛べば生きてはいられない。

 降りるには…ロープが必要だが、まぁ10mを超えるようなロープは許可されないだろう。

 そもそも、ロープを括り付ける場所も、ほとんどない。

 ここのドアにはノブがない。

 可能な限り凹凸を無くしてある。

 各階は、独立した電力供給になっており、1フロアが遮断されても他の階には影響はない。

 カメラは部屋の中には無い。

 部屋の入口までだ。

 家具は全て固定されておらず、大きな窓とフラット、非常に造りになっている。

 そう…落ちやすいのだ。


 俺は、ベッドに、しがみついて窓から落ちた。

 クッションにするためじゃない。

 階下の滑りやすいベランダに飛び移るための踏み台にするため。

 しくじれば『死』だ。

 それでもよかった…だから飛べたんだ。


 その賭けに俺は勝った…肋骨にヒビは入ったが、4階のベランダに転がり落ちた。

 5階より下は、パイプが外壁を通っている。

 それを伝って俺は逃げた。


 当面の追手は少ない。

 警備の手間を省くため、人員は少ない。

 完璧なマニュアルは、思い付きの行動には脆弱なものだ。

 大人のルールが子供の素朴な疑問に閉口させられてしまうように…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る