sieben(7)

 彷徨う必要は無かった。

 今より低い場所へ…木の少ない方向へ進めばよかった。


 半日で、田舎の駅に出ることが出来た。

 当然、追手はいたが、問題は無かった。

 田舎の無人駅にスーツがうろうろしていれば、嫌でも避ける。


 俺は、農家の軽トラックを盗み、『片山 崇』の家へ向かう。

 追手がいても構わない、むしろ歓迎だ。

 俺には必要なものがある。

 当面の金と拳銃だ。

 やつらは、それらを俺に運んでくれる。

 接触を待てばいい…。


 肋骨に添って湿布を貼って、カプセルホテルで横になる。

 出来るだけ、人に紛れる。

 独りになるのは危険だ、人目のある場所がいい。

 いきなり殺されることだけに注意すればいい。


 人ごみを避け、独りにならない場所。

 このカプセルホテルもそうだ。


 だが…俺に寄ってきたのは、追手じゃ無かった。


「アンタ…ライターか?」

 その男は、ぶっきらぼうに言い放った。

 警察手帳も持たない俺が、刑事だと言っても信用もしないだろう。

 もっとも、自分が未だに刑事かどうかも怪しいのだ。

「フリーのな…」

 俺は嘘を吐いた。

「『片山 崇』のことを調べているのか?」

 俺は身構えた。

 なんとなく、刑事かなとは思ったのだが…身分を明かさない以上、軽はずみな言動は控えるべきだ。

「あぁ…」

「手を引くんだ、悪い事は言わない」

「アンタ…誰だ?」

「俺は…元刑事デカだ…」

「元?」

「あぁ…元だ…」

「その元刑事デカが、なぜ俺に、そんな忠告を?」

「…『片山 崇』は危険な男だ…ココでウロウロしているということは、お前も、ソコソコの所まで調べているんだろ」

「アンタは、警察を辞めて、ココで何をしているんだ?」

「答える必要は無い…強いて言えば、自分のためだ…納得させるためだ」

 こいつも、被害者なのか…。

「場所を変えないか?いきなり、見ず知らずの男に仕事を邪魔されてもな…はいそうですか、とは言えないよ」

「しかたない…」


 俺は、元刑事デカだと言う男の車で、海岸に移動した。

 夜も更けた海岸。

 彼は、俺に無言で拳銃を見せてきた。

「本物か?」

「あぁ…押収品を持ちだした、これくらいの覚悟で、俺は『片山 崇』を追っている」

「なぜだ?アンタは、何で職を辞してまで奴を追う?」

「刑事では、もう…追えないからだ…」

 それで悟った。

 この男は、捜査本部の人間だったんだと…。

 俺と同じ…きっとコイツも人を捨てて、『片山 崇』を止めようとしている。

 きっと…殺すことで…。

「奴を調べて、追うのは止めろ…危険すぎる。せめて俺が…奴を止めるまで…真実は命と引き変えになるぞ!」

「そうか…アンタも…止めたいのか、アイツを」

「も?オマエ…」


 俺は、彼の拳銃を抜き取っていた…。

「おい…オマエ!」

「悪いな…『片山 崇』は俺が殺る…」

 俺は撃鉄を起こした。

「冗談だよな…は誰なんだ?公安か?教団か?」

 ダンッ!!

 男の首がガクンッと弾かれ、カクンッと横に折れる。

「その誰でもない…そんな甘ちゃんだから…お前にはアイツを殺せない」

 俺は、男を海に放り捨てて車で走りだした。


 死体の処理?

 そんなものは公安がやってくれるさ…奴らの狙いが『片山 崇』のナニカである以上。

 不都合な事実は、闇の中だ…。



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