Die 4 コトネへ…

『ありがとう…僕を気にかけてくれて。

 ありがとう、僕を外へ誘ってくれて。

 あなたは、僕と18歳離れています。

 若く、美しく、触れてはいけないような存在。

 逢うたびに、抱きしめたくなる。

 色々と伝えたい……。

 でも言葉にはできない。

 好きだ という言葉の重みを、僕は知っている。

 その言葉を口にするには、あまりに僕は、軽い存在。

 お金もなく、心を壊した今の僕には、その一言が、あまりに重い。

 好意を持ってくれているのか?

 ただの同情なのだろうか?

 あるいは、そんな心すら抱いてないのか?

 今の僕には、わからない。

 抱きしめるだけで精一杯。

 今の僕には、それ以上……。

 だから、いろんな気持ちを込めて ありがとう』


 私が最後に送ったメール。

 たぶん、愛していた。

 愛されていたかは解らないし…どうでもいい、今となっては…。

 出会いなんて、なにかが少しズレただけで起こりえなかったかもしれないものだ。

 会社を解雇されていなければ…別の嬢を呼んでいれば…『コトネ』とは出会わなかったのかも知れない。

 逢わない日にも、毎日のようにメールをやりとりしていた。

 私が望めた義理はないのだが…彼女には幸せになってほしいと思う。


 もっと早く出会っていれば…あるいは違う路を歩いていたのかもしれない。

 でも…IFを考えることほど無駄なことはない。

 すべては、過去に変わっていくのだ…今、この瞬間も1秒後には過去として書き換え不可能となる。


 後悔のない今なんて在り得ないことなのだ。


 すべてにおいて完全な判断をくだし、正しい選択をしてきたと言える、言い切れる人間などいるはずがない。

 でも、私は、そのひとつ、ひとつを間違ってきたのかもしれない。

『コトネ』のことだって、彼女は風俗嬢だ。

 色恋を金に変えて生きている…。

 そこまで割り切れているかどうかは解らないが、男を勘違いさせないと金にはならないことは事実だ。

 もしかして…そう思わせて、もしかしては永遠に訪れないという、男が薄々感づいている現実を上手に塞いで繋ぎとめる。

 それが風俗嬢というものだ。


 ごめんね…風俗嬢で…。

 何度聞いただろうか…そんな言葉を。

 どういう意味なんだい?

 私は聞き返す勇気が無かった。

 謝られるその理由は?

 聞けなかった、最後まで。


 愛しているなんて言えなかった…愛していたから。


 壊れた心で…汚れたこの手で…どうして彼女を抱きしめられる?


 血の臭いが、硝煙の匂いが、どんなに身体を擦っても落ちやしない。

 かき消すように身体に香水をふりまいて、1日に何度シャワーを浴びて、何回、香水を身体にまとわせる。

 いつから食べ物の味が解らなくなった?

 私はいつから…生を諦めた…。


 それでも…『コトネ』に抱きしめられている時間だけは、人の温もりを感じられていた。

 感じようとしていた。

 必死だった…『生』を感じようとして。

 何もしてやれなかった…何もできなかった…それでも許されるなら…。

 願わせてください。


『コトネ』あなたの幸せを…。

 どうか…どうか…叶えられられますように…。

 I wish for…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る