骸 むくろ

 これまで『片山 崇』という男を調べて解ったのは、こんなところだ。

 俺は、この男を調べているうちに『運命』という言葉を改めて考えることになった。


 この男が他人を殺すに至る経緯は、特別なものではない。

 言ってしまえば怨恨、見方を変えれば逆恨みとも取れる。

 裁判になれば、情状酌量は難しいだろう。

 殺人に至る経緯に酌量の余地はあると思うが、その報復は人間性の欠片も感じない。


 環境がそれを育んだのか…そうではない気がする。

 この男は、産まれつきにナニカが欠落していたのではないだろうか。


 日本人には少ないといわれている『サイコパス』

 どうしても、その言葉が頭から離れない。


 子供の頃の奇異な行動は数多く聞けた。

 勉強・スポーツでは目立たない、わりに明るく、でも友人は少ない。

 トンボの羽を半分だけむしるのが好きで、トンボが弱ると頭部を指で引き千切って綺麗に並べていた。

 そんな猟奇的な部分も聞けた。

 盗んだものを売っていたとか、自販機荒らしなど、この男の裏側の顔も見えてくる。

 いわゆる不良少年ということはない。

 いや…いっそ、そのほうが解りやすい。

 この男は、そこが普通じゃない…目立つことを目立たせないように行動する。

 成績はよくはない…しかし、IQは高かったんじゃないだろうか。


 よく解らないというか…寒気がするような性格。


 人物像を想像するに、自尊心は高い。自己顕示欲も強い。だが、それを万人に見せ付けるようなことはしない。

 でも、誇示したい…。

 矛盾とまでは言わない。

 むしろ子供のような無邪気さを持っていることが恐ろしいと思う。


 言うなれば『さかしい幼児』のような男…。


 愉しんでいる、間違いなく…。

 そして試している…。

 なぜだろう…この男が、こういう犯罪を引き起こすことは、決まっていたのかもしれない。

 偶然が重なった、たしかにそうなのだ。

 銃の入手なんて、普通に生活していれば難しいはずなのだ。


 この男に、ソレが定めれた必然のように、その手に握らされてしまった。

 そして、その銃は…公安が隠ぺいした事件の物的証拠であり、紛失物であったこと。

 結果、公開捜査ではなくなったこと。

 全てが、この男『片山 崇』に繋がる、本人も知り得ぬままに…。


 発端となった世界最初の毒ガステロ、いやそれを引き起こした教団の設立から、この男に繋がっていたのではないだろうか…そんな、こじつけの様な考えが浮かんでしまう。


『片山 崇』が自死を選び、事件の隠ぺいが進む今…俺は、この因果をどう扱うべきなのか。


 マスコミを利用して公表すべきなのか…。

 このような猟奇的事件は闇に葬るべきなのか…。


 元刑事、その程度の俺が、ここまで調べられるのだ、いずれ興味を持った誰かが公にするかもしれない…。


 結果だけ語ろう…。

 心配する必要はなかった。


 そう…この事件は公にはならない。

 色々、不都合が起きる人間が多すぎる。


 そんなわけで…俺も、闇に葬り去られたわけだ…。

 誰に?

 警察?マフィア?教団?…思い当たる節がありすぎて…。


 この事件の真相は、命と引き換えに手にできる、きっとキミもね。

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